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エイユウの話~冬~

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 食べ物を取りに戻ってから、中庭に再集合する。それから彼女が案内してくれたのは、もう使われていないという教室だった。扉をあけると中は他の教室と何も変わらず、むしろ未使用な分だけ綺麗である。使わないなんてもったいないと、二人は思った。
「何で使われてないの?」
「第一次学園反乱のときにひどく壊れて、修理に一番時間がかかったらしいんです」
 使わない時間割を組み立てて、結局それをそのまま使用してしまっているからだという。補足すると。滅多なことが無い限り、使用教室は変わらない。変わるのが時間くらいなのだ。しかし、教室の奥にたどり着いた彼女がくるりと振り返った。
「でも、実はもう一つ秘密があるんです」
 そういって彼女が掃除用具入れを押した。が、彼女の力ではびくともしない。通常の掃除用具入れは生徒がちょっとぶつかっただけでもすぐ動くのに、だ。不思議に思ったラジィに対し、キサカは暢気に「どうせ使わない掃除用具を詰め込んだんだろう」と考えていた。壊れたホウキやらバケツやらが捨てられているのを、入学してから見たことがないからだ。人の出入りや国家関係者の訪問も多いため、校風や学生間問題より、「外面」を気にしていることへの皮肉でもあった。
 アウリーがなんぼ押してもだめなので、ラジィが協力に入る。が、女性二人の力でも動かない。怒られたキサカがりんごを置いて協力すると、思いのほかするりと掃除用具入れが移動した。あまりにも軽かったので、三人が重なるように倒れこんだくらいだ。
 扉が全部開けられるくらいまで動かせたのを確認すると、キサカは肩を回しながら二人を見る。りんごを持ち直しながら、嘆息した。
「お前ら、非力すぎ」
「あんたが馬鹿力なんじゃないの?」
 ラジィの完全な負け惜しみである。お互い仲良くののしりあう二人を無視して、アウリーは導師から受け取った鍵を差し込んだ。
 ガチャガチャと南京錠と格闘する彼女をずっと見ているのも暇で、キサカは掃除用具入れを見た。彼にとっては普通のより軽いくらいだったのだが、二人には動かせなかった。一人で押したらやっぱり少し重いのだろうかと思って、軽く押してみる。するとやはり簡単に動いた。先ほどよりは重く感じるが、そこまで力を入れなくても充分動かせる重量だ。教室のよりはずっと軽い。
 ちらりと見ると、ラジィが助けに入ったところだったので、まだもう少し時間がかかりそうだった。キサカは掃除用具の扉を開ける。と、驚くことに、中身は普通の教室のものの半分もなかった。一番奥に紋章が刻まれているのが見える。
作品名:エイユウの話~冬~ 作家名:神田 諷