エイユウの話~冬~
「私は・・・私も、キサカ君も、ラジィも、キース君を助けるためには手段は問いません」
しっかりと、父親を見つめて彼女が言った。
「犯罪だろうとなんだろうと、やりますよ」
脅迫だ。あの大人しく、庇護欲を駆り立てる様子だったあの彼女の痕跡は、毛ほども残っていない。別に娘が捕まったら捕まったで仕方のないことだとは思うが、彼の場合、それは自分にしっかり返ってくる。とてもじゃないが、耐えられるものではなかった。
「ああもう、解ったよ!ただ、こっちの条件も飲んでもらうからね」
その条件を承諾したアウリーが、実質的に親子喧嘩に勝利した。
いつもの中庭。いつもなら寝転がっているだろうが、珍しくキサカは木に寄りかかったまま立っていた。いらだたしそうに足をだんだんと鳴らしていたが、ラジィが注意するとすぐにその動きを止めた。しかし今度はいらだちをぶつける先がなくなって、意味もなく指を動かす。それを注意するとやっぱり止める。すると今度は頭を掻き始め・・・と同じをことずっとくり返していた。とうとうラジィが耐えられなくなる。
「じっとしてらんないの?」
「性に合わねぇんだよ」
キサカはラジィを見ることもなく答えた。いらだっているのはラジィだって同じだった。相手は現在の権力者、どう考えたってこちらの分が悪いのは明白すぎる。
灰色の空と乾燥した空気が、二人の雰囲気を更に静めていた。静電気で発火しそうなくらい、ぎりぎりの状態である。
ふいに、思い出したようにラジィが言った。