エイユウの話~冬~
「振るってみろよ、アウリーだって路頭に迷うぜ?」
犯罪者バリの口ぶりである。たまたま一緒にいただけの友人だったが、キースを助けるためなら遠慮はなかった。盾に使われた彼女も、怒ることなくただ父親を静観している。
「具体的、抽象的両暴力を振るったのは、君と彼女だけだ。娘は見ていただけだろう?」
さすがは導師。学識あるどころか、卑怯な立ち回りまで見事である。それに嫌気がさして、キサカは導師を投げ捨てた。若くない導師は、ゴンと強く腰を打つ。しかし腰を擦りながら、彼は勝ったのだと勘違いし、得意げな様子だった。
キサカは導師の前に、彼の座っていた椅子を思いきり投げる。鈍い音がして、キャスターが外れた。いつも冷静に見えた彼は、実に荒っぽい性格のようだ。まあ、垣間見えるところは何度かあったが。そのまま、キサカは乱暴にドアを開けて導師室を飛び出した。
振り返って彼を見たラジィに、アウリーが小さな声で告げる。
「キサカ君と、中庭で待っていてください」
「アウリーは?」
「少し、親子で会話をさせてください」
彼女は彼の娘という特殊な立場をここで利用しようとしているのだ。ラジィは言葉を詰まらせてから、解ったとだけ伝えてキサカを追いかけた。