エイユウの話~冬~
「補習授業があるのは二階。でもさっき、二人を一階で見ました」
怒りにかられながらも、彼女はまだ導師のことを教師として認識しているらしい。ぎりぎり敬語を形成している状態で話してきた。
「まだ教室に行ってなかったんだろう?」
「さっきですよ。補習開始時間は大幅に過ぎています」
導師は押し黙った。彼女の言葉はまだまだ続けられる。
「しかも、二人で歩いていましたよ。教室が違うのに。確か地は北棟で、緑は南棟ですよね」
正反対も正反対、一緒にいるのがおかしいというのは、火を見るよりも明らかである。
導師は途中で言葉を区切り、彼女の言葉に抵抗できない状態にあることが外からでも視認することが出来た。しかし、彼等は忘れていたのだ。
追い詰められていた導師がにやりと笑う。
「導師に対してこんな所業を働いて、ただで済むと思っているのなら、まったくめでたいね」
三人ははっとする。今キサカが胸ぐらを掴み、ラジィがにらみつけている人物は、友達の父親ではなく、導師と言う社会的地位も高い権力者だ。彼はつまり、導師権限を振るってきたのである。
それでもキサカは開放しなかった。綺麗な黄色の瞳は揺らぐことなく、むしろ喜ぶようにゆがむ。口角を上げた彼のひしゃげた笑顔は、どんな指名手配よりもそれっぽく見えた。