エイユウの話~冬~
その2
導師室。ここには今、心の導師しかいなかった。特にキサカの推測とは関係なくて、ただ彼が空き時間だったというだけだ。まだ地と緑の導師も残っているはずだが、彼らは補習授業に時間を奪われていた。教師側からすれば、さぼった生徒の後始末までしなきゃならないなんて、面倒なだけである。
明日の授業に使う資料をまとめ終えた導師は、ふうと大きく息を吐いた。もう仕事という仕事は終わったのだが、宿直のため帰るわけにはいかないのである。手持無沙汰な彼は、娘が見たのと同じ場面が見えないかと、風晶に手を伸ばす。
そんなときだった。乱暴にドアが開かれ、明の術師の少年が入ってきたのは。続いて緑の少女まで入ってきて、彼は豆鉄砲を食らったような顔になる。何より驚いたのは、緑の彼女の後ろから、自分の娘が入ってきたことだった。
三人は室内を見回しもせず、一目散に自分のところへやってくる。教えている覚えもないが、何かの質問だろうと向きを変えた。
「何か質問かな?」
予測と建前から友好的にそう持ちかけた彼の襟ぐりを、明の少年がつかんでくる。初めての体験であり、予測と異なる事態になっていることから、導師は目を丸くした。彼は悪辣な表情で笑う。
「ああ、質問だ」
そして恐ろしい形相で、言葉をつづけた。