エイユウの話~冬~
それを彼等は恐れた・1
部屋に入ったラジィは口をあんぐりと開けた。
「何よ、これ・・・」
部屋に間違いはなかった。空き部屋にはない教科書が、既存品の本棚にきちんと収納されているからわかる。しかし、そこはまるで空き部屋だった。
机の上は磨かれたあととほんの少しの塵があるだけ。空のゴミ箱はきちんと水洗いされていて、鮮やかな緑色が映えている。じゅうたんに汚れはちっとも見えず、ゴミ箱を取り込まんばかりの同色が美しい。ベッドはメイキングまで完璧で、使用者の存在を感じさせないこまめさだ。
ラジィの言った「キースの部屋」とは、かけ離れた内装がそこにあった。
アウリーは部屋の間違いを確認するため、証拠であるはずの教科書を取り出す。本を開いて名前の欄に目を向けた。そこに書いてあるのは紛れもない、「キートワース・ケルティア」というキースの文字。
「ま・・・間違いないみたいです、やっぱり」
その一言をきっかけに、キサカが暴れだした。メイキングされたベッドをひっくり返し、拍子で落ちた枕を椅子でたたきつける。すると中からふわりと新しい羽根が舞って、キースの面影のなさを垣間見せた。
おびえるアウリーと驚くラジィを気にもせず、彼は嘲笑した。