エイユウの話~冬~
「・・・解ったよ!やればいいんだろ、やれば!」
キサカは初の敗北を味わう。彼はベルトのストッカーから、一本の火筒を取り出した。栓をぬくと、魔力に圧縮されていた大量の水が溢れ出した。それらは一滴も落ちることなく宙に浮かぶ。そのまま、キサカはドアにある鍵穴を覗き込んだ。この世界のウォード錠の特徴は、鍵穴が筒抜けていること。そのため、鍵穴から内部を覗き見ることが出来るのだ。
本来、構造を知ろうとして覗き込んだキサカだったが、狭い視界に広がった世界を見て、ふと立ち上がった。目も向けないで、ラジィに尋ねる。
「なあ、キースって、実は超綺麗好きとかあんの?」
「え?何よいきなり」
不審に感じて聞き返したラジィだったが、その疑問は素通しされる。無視されたことへの不平不満をさんざんぶちまけたあと、彼女はやっと回答を告げる。
「汚くはなかったけど、綺麗とは言いがたかったわね。で、なんなわけ?この質問」
再度尋ねてみたラジィだったが、キサカは無視して、焦ったように鍵穴に水を突っ込んだ。鍵が壊れないようにと気を配っていたのに、その丁寧さはどこかへ飛んで行ってしまったようである。乱暴に鍵を開けると、水をその場に捨てて入っていく。女子二人もそれぞれが持ってきたお土産の袋を持ち上げると、それに続いた。