エイユウの話~冬~
「あんた、水使いでしょ?」
水使いとは彼女の造語で、どうやら水を使う術師のことを示すらしい。明の魔術で水を使用している彼は、もしその意味であっているなら、確かに水使いだった。
嫌な予感をひしひしと感じながら、キサカはそれを肯定する。するとラジィはキサカの腕を取って、ドアの前に立たせた。
「あんたほどの腕があれば、ウォード錠の開錠なんて、料理するより楽でしょ?」
実は料理が壊滅的に下手なキサカには、確かにそうかもしれない。しかしだからと言って、簡単なはずがなかった。それ以前に、道徳上、法律上の問題が浮上する。
「不法侵入だろ!」
「緊急事態よ!もし中でキースが倒れてたらどうするの?」
「クルガルが出てくるっつってたじゃねぇか」
「木鏡から勝手に出て来れる魔物なんて、人型くらいよ!獣型なんかじゃ無理だわ」
「っつーか、それ以前に俺を犯罪者にするのか?」
「俺ではないでしょ。三人同罪よ。でも、友達に何かあったのに黙ってるのは違うわよ」
「・・・そりゃそうだけど」
ラジィに初めて言い負かされそうになり、抵抗勢力としてアウリーに視線を向けた。が、キースに思いを寄せている彼女がラジィに賛成しないわけもなく、じっと彼を見つめている。もう逃げ道はなくなった。