エイユウの話~冬~
「入らないんじゃないわ、入れないのよ」
「キースに警戒されてんのか?」
やっと少し前と言える時間が経った問題を、キサカは掘り起こした。優位に立ったラジィは満足げな顔で、孔雀色のドアをノックして言う。
「そんなんじゃないわ。出ないのよ」
キースの部屋にきたことがなくても、彼女の言い方ですぐに解った。普段の彼なら、押してまもなく鍵を開けてくれるのだ。
ラジィの言葉をいまいち信用できず、キサカはもう一度インターフォンを押した。本当に警戒されているのではという一抹の不安が芽生え、アウリーは開錠の音を聞こうと耳を済ませる。ラジィは信用しなかったキサカが自分たちと同じになることを予測した。
この勝負に勝ったのは、ラジィだった。キサカがその後何回もうるさくインターフォンを押しても、キースが出ることはない。最終的に寝ている可能性を視野に入れたアウリーが、慌てて彼を止めていた。
「いや、寝ててももう起きてんだろ」
「でも熟睡してるのかも・・・」
そんな推測だらけの会話が三度四度とくり返された。今まで見ているだけだったラジィが、小さく挙手する。