エイユウの話~冬~
「ああ、キサカ君も来たんですね。呼ぼうか迷ってたんですよ」
きっと迷っていたのはアウリーだけだろう。ラジィは体調の悪いキースの看病をアウリーにやらせて、距離を縮めさせる心づもりだったに違いない。あのもめごとがあった後にもかかわらず、彼女のキューピット精神はいまだ健在なのだ。
そしてあきらめながらも容認したわけではないキサカは、何も言わずにじろりと彼女を見た。言いたいことが分かっている彼女は、悪戯な笑みを浮かべて視線を上げる。ため息をついた彼は、手に持っていた袋を足元に置いた。不意に目に映ったのは、彼女たちが持ってきたのであろう袋だ。まさかと思うキサカに、荷物の音に向きを戻したラジィが先制を打ってきた。
「まさか、あんたもそれ持ってきたの?」
「・・・持ってきちゃ悪いか」
アウリーとラジィの二人もそれぞれが袋を持っていることから、彼女たちも意図せずかぶったことがわかる。キースの好きなものがなんなのか、ほかにもいくつか知っているくせに、どうしてこうかぶるのかと、三人とも嫌になる。
気を取り直したキサカは、壁に肘をついて二人に尋ねた。
「で、なんでそろってドア前にいるわけ?」
さっさとインターフォンを押せばいいものを、もたもたとまごつく彼女たちが気になったのだ。特に皮肉ということでもなかったのだが、この格好とこの人物が言ったらそうなってしまうだろう。びくびくとおびえるアウリーと、不機嫌になったラジィが同時に彼に視線を投げた。