エイユウの話~冬~
「踊ってきていいよ、アウリー」
「・・・ラジィこそ」
アウリーは会場から目をそらして、手元を見た。そこには、キースのために買ったお面がある。交換の機を逃してしまったままだった。
ラジィも同じように、キサカにあげるはずだったストラップをぶら下げた。考えるのが面倒で、くじ引きの景品をそのままあげようと思っていたのだ。ストラップは翡翠色だが完全に女性用で、可愛らしいデザインになっていた。
「・・・残念ね、キースと踊れなくて」
「いいんです。どうせ、キース君は私とは踊ってくれませんから」
言葉を間違えたと思ったラジィだったが、思いのほかアウリーが割り切っていたので、ストラップを落としてしまった。拾って砂を払うと、今度はアウリーが口を開く。
「キサカ君、まだ門のところにいると思いますよ」
確かに踊れるチャンスだが、残念ながらその度胸はラジィにはなかった。
曲がもう何曲も変わり、それだけ時間が経ったことを思う。
そんなことを考えた自分がなんだか婆臭くて、ラジィは声を出して立ち上がると、振り返ってアウリーを見た。
「じゃ、あたし達で踊りに行こっか?」
思わぬ提案にアウリーは笑った。そして賛同すると、二人はダンスの輪の中へ入っていった。