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ACT ARME 7 キレイゴト

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二人は息を切らしつつ町の中に入った。その目に映ったのは、外観だけはあまり変わりばえのない、しかし、一斉の人気が消えてなくなっていた寂れた町並みだった。
その光景をしばし呆然と眺め続けた二人は、再び走り出した。見慣れた、しかし懐かしい道を全力で走りぬけ、互いの家の中に飛び込んでいった。
本来なら、中に入れば「おかえり」と自分を暖かく迎え入れてくれる両親が待つ家に。
だがそこに待っていたのは、何一つ聞こえてこない静寂と虚無だった。家の中は荒らされ、ほとんどものは残っていない。思い出が残っていた椅子も机も、全部なくなっていた。
レックはたまらず外に飛び出した。ハンスも外に飛び出した。そのまま二人は何一つの打ち合わせもせずに町中を走り回った。
小さい時にはよくキャンディをもらっていた駄菓子屋。探検でよく世話になっていたあの裏山の森。二人が日々切磋琢磨し研鑽を積んだ稽古場。町に入り込んだ獣と一死一生を賭けた死闘を繰り広げた街道。二人が、見知らぬ森に置いていかれる前日に決闘をした原っぱ。
どこを探しても人一人いなかった。


陽もほとんど落ちかけ、昼前からさんざん走り回り精も根も尽き果てた二人は、フラフラとおぼつかない足取りでレックの家の中へと入った。
もしかすると今度こそ両親が中にいるかもしれないという、有り得もしない希望妄想は、やはり裏切られた。
ついに二人はその場にへたり込み、レックは無言で大粒の涙を流し、ハンスもまた、泣きながら床に何度も何度も拳を突いた。
二人は、深い深い悲しみに暮れ続けた。その決して抜け出せそうにないほど深い悲しみから先に抜け出したのは、ハンスだった。
「ちくしょう・・・。ちくしょうっ・・・!!」
血で拳と床が赤く染まるほど床を殴り続けたハンスは、おもむろに立ち上がり、そのまま部屋を出ようとする。
「どこ、   っ行くの・・・さ?」
レックが嗚咽をあげながらも聞く。



「・・・どこに?  んなの決まってんだろ。復讐しに行くんだよ。この町を潰した、この国にな。」
そう答えるハンスの声は、憎しみでどす黒く染まっていた。
「そん・・・なの・・・。」
レックの声は言葉にならない。しかし、それでもハンスには伝わったようだ。レックに背を向けていたハンスが、こちらを振り返った。
その目は、さながら猛禽類のように鋭くとがり、視線のみでこちらを刺し貫くかのようだった。
「お前、この期に及んでまだ『人を傷つけるのはよくない』なんてぬかすつもりじゃないだろうな。」
レックは答えない。その様子を見たハンスはレックに近づき、思い切り殴り飛ばした。
「お前いい加減にしろ!!オレたちの家が!故郷が!何一つ悪いことはしていないのに一方的につぶされたんだぞ!!ただ貧乏だったというだけで!!納得できるかよそんなの!!」
レックは殴り飛ばされた状態のまま、電池切れの玩具のように何一つ反応を返さない。
「・・・もういい。お前のその腐れそうなほど甘ったるい奇麗事に付き合うのはもうたくさんだ。」
そう吐き捨て、再び背を向け部屋を出ようとする。その背後にわずかだが物音がした。
レックが、自分の棍を杖にして立ち上がろうとしているのだ。悲しみに暮れ、殴り飛ばされ、心身ともに尽き果てそうになっても、いま目の前で自分から離れていくハンスを、決して救われることがない、過去の言葉とは遠くかけ離れた場所へと行ってしまう親友を止めるために。
やっとのことで起き上がり、武器を構えたレックを見て、ハンスも応対した。
「お前がその気ならオレも容赦はしない。今度は正真正銘、本気の殺す気でやってやるよ。」
そう言い、武器を構えると一切の間を置かずにハンスは襲いかかってきた。
レックもすかさず応戦した。だが、すべてを消耗しきっているレックと、消耗した分を憎しみで埋め、力を出しているハンス。
勝負は始まりと同時に決着がついた。
レックは前身を凍りつかせ、息が出来ぬ程の激痛を抱え、声もなく倒れた。
ハンスは、そんなレックを冷ややかに見下ろし、小さく吐き捨てた。
「この腑抜けヘタレが。」
そのあとは一言も発さず、扉の向こうへと姿を消した。


それから日が沈み、夜が明けるまでレックは倒れ続けていた。眠っていたわけでも、泣いていたわけでもない。ただ焦点の定まらない目で、凍った体から感じる痛みを抱きつつ寝そべっていた。
そして再び日が昇り、頂点に達しそうになったころ、レックは立ち上がり音もなく家を出た。
それから5年。あて無き放浪旅を続けていたレックは自分の大切なリストバンドを紛失したことに気づき、なんとしてでも見つけたいと藁にもすがる思いでAROへと足を運んだのだった。





長い長い過去話だった。話し始めた時にはうっすらと赤らんでいた空は、すっかり暗闇に包まれている。
話を終えたレックは、あとに続ける言葉が見つからず、ただ黙りこくっていた。ほかの面々もなんて声をかければいいのか分からず、一様に黙っていた。


「ねぇ、一つ質問していいかな?」
ようやくルインが口を開いた。
「レックはさっきそのハンスとであった時、割と躊躇せずにかかっていったよね?あとそのあとも、自分の怪我も省みずに強引にでもハンスたちのところへ行こうとした。
今の話を聞く限り、レックとハンスは切っても切れないほど強い縁で結ばれた仲なんだよね?僕らがこのままテロリストのところへ向かえば、最悪ハンス諸共殺すことになるかもしれないんだけど、そのことはわかってる?
レックは今この現状にどうすればいいか分からないで悩んで、結果自我を押し殺そうとしてない?その選択、後で後悔しない?」
ルインが一つ一つ投げかけるように問いかける。
「・・・・ったら、どうすればいいのさ。」
レックの体が震え、そこから震えた声が漏れ出た。
「だったらどうすればいいのさ!?ボクだって嫌だよ!ハンスは、唯一無二の親友だったんだ!でも、本当は戦いたくなんてないけど・・・       でも!!そうしないとキブを危険に晒してしまうんだよ!?ボク一人の事情でそんなこと・・・」
一つ声が漏れると、そこから無理やり押し込んでいた感情が一気に奔流した。
そのまま怒鳴るようにまくし立て続けようとしたレックを、グロウが強引に口で遮った。
「るっせえなさっきから。要するにてめぇは、てめぇが勝手に作った選べねぇ選択と選びたくねぇ選択の板挟みに呻いて喚いてるだけじゃねぇか。みっともねぇ。」
流石のレックも、このグロウの全く空気を読むつもりがない暴言にはキレた。
無言でグロウの目の前まで迫ると、そのままためらいなく拳でグロウの顔面にフックを打った。
鈍い音が辺りに響く。二人を除き、全員が固唾を呑む。
殴られたグロウは、少しの無言の後ゆっくりと立ち上がり、そのまま立ち尽くしているレックに腹パンを食らわせた。
「がっ・・・っは・・。」
目を大きく見開き、うめき声をあげながら倒れたレックに、グロウは一言言い放った。
「拳に腰が入ってねぇ。そんなんじゃ歯にヒビも入らねぇよ。殴るからには相手のアゴ砕くぐらいの強さで殴りやがれ。」
「そん・・・なの、できるわけ・・・。」
ないと続けようとしたレックを、グロウは足で踏みつける。
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈