ACT ARME 7 キレイゴト
「だからあいつに腑抜けヘタレとか言われてんだろうが。ダチを止められなかった事引きずって、右も左も選べねぇで惰性で流されやがって。『どうしようもなかった』『仕方がなかった』なんざ言い訳にすらならねぇんだよ。踏ん切りつかねぇで狼狽えてる暇あったら、腹の一つでもくくれや。」
そのまま足でレックをぐりぐりと弄びながら、グロウは一方的にレックに言い続ける。
アコがたまらずグロウに食ってかかった。
「あんたねぇ!人の気持ちってものを少しは考えなさいよ!大切だった親友と戦う覚悟なんて、そうそうできるはずないでしょ!」
だがグロウは全く意に返さず、平然と返した。
「あぁ?甘ぇ事抜かしてんじゃねぇよ。てめぇの事情一つで町吹き飛ばす気か?」
「!」
アコがなにか言い返そうとするが、しかし何も言い返すことが思い浮かばず、黙って俯いた。
「はいはい、そこまで。それ以上はただの仲間割れに発展するよ?グロウは言いすぎ。アコちゃんも落ち着いて。」
とりあえずルインが仲裁に入った。
「どうせてめぇも俺と似たようなこと言うつもりなんだろ?」
「いや、確かにそうだけど。だからって肉体言語に突っ走るのはどうかと思うよ?もうちょっと手段を選ばない?」
「知るか、めんどくせぇ。」
グロウは、ルインの忠告にもケッとどうでもよさげにそっぽを向いた。
どうやら今日は自分が色々苦労しなければならない日らしい。それに気づいたルインはやれやれとため息をつき、今日ぐらいは仕方がないと諦めた。
とりあえずグロウの腹パンで気絶してしまったレックを、往復ビンタで文字通り叩き起こす。
頬を真っ赤に膨れ上がらせたレックが目を覚ましたところで、ようやく話を再開させる。
「さてレック。レックが今抱えている苦悩は、解決方法があるんだよね。」
その言葉に、それまで腫れる頬を抑えていたレックは身を乗り出した。
「か、解決方法って!?」
「至極簡単な方法だよ。相手は二人、目的はその二人を撃破し、戦術級兵器を回収すること。手段と相手の生死は問わない。これが今回の任務内容だったよね?」
ルインの確認にレックは頷く。
「早い話が、プロメテウスって危険物をとっとと奪えばいい話なわけ。さっきまでは敵兵数こそわかっていたけど、戦闘力まではわかっていなかったから、万が一の安全も兼ねて一塊になって動くという予定だったんだけど、二人のうち一人のことがわかったのなら話が早い。
こっちも二手に分かれて片方はあのハンスを斃す。んでその間にもう片方が即効でおそらくプロメテウスを所持している方を叩く。これが今の作戦。ここまでもOK?」
レックもつられてOKだと言いそうになったが、少しそこで質問する。
「ハンスじゃなくてもう一人がプロメテウスを所持してるって、なんで言えるのさ?」
「まあ心理的に考えて、こっちも向こうも一番重要な鍵となっている物だからねぇ。片方出張ったらもう片方が保管しとくでしょ。
というわけで、二点同時強襲で一気に片付けるのがいいわけ。あとは、レックが一番恐れていること、親友であるハンスを死なせなければいい。はい、おしまい。」
そのあまりにも簡単なことです?みたいに言い切ったルインを、しばし放心状態でレックは眺める。そのまま同意しそうになったが、しかし同時にもう一つの懸念事項が浮かんだ。
「で、でもさ。そんなにうまくいくかな?一人の死者も出さずに、計画だけを打ち砕くなんてことは。」
するとルインは肩をすくめる。
「それは保証しかねないね。必ずうまくいく保証なんてないし。この選択を取った場合、最悪僕らがテロリストを止められず、プロメテウスBOMBで壊滅ENDという、最悪最凶の結末が訪れる可能性だってある。
なんか責任放棄するようで気分良くないけど、どっちを選ぶかはレックが選んで。一番の当事者なんだから。」
「え・・・?」
唐突に投げかけられた重大な選択。我を取るか、他を取るか。
「ボクが・・・?」
声が震える。
自分がハンスのことよりも町を救うことを優先すれば、ルインが挙げた最悪の結末が避けられる可能性は高い。しかし、その選択は即ち、ハンスが・・・。
気絶だけさせて連れ帰る? 愚策だ。そんなことをすれば、あのハンスはもう二度とこちらの言葉に耳を貸さなくなる。
ハンスを死なせずに事を終えるには、説得する必要がある。そして、それができるとするなら、おそらく自分だけだ。
でも、もしそれが失敗したら・・・・。
刹那の閃光の後、瞬間的に膨大した爆風が町を一瞬のうちに焼き尽くす光景が脳裏に再生され、背筋が凍る。
自分に、それができるのか?下手したら自分だけじゃなくて、ここにいる皆、いや、町の住人全員の命を消滅させることになるのに。
怖い。恐い。体の震えが大きくなる。
冷汗が吹き出る。それと反比例してのどが渇く。選択は決まっている。だが、それを選ぶ勇気が出ない。
「腑抜けヘタレは一生そこで悩んでろ。行くぞ。」
おもむろにグロウが立ちあがり、立ち竦んだまま固まったレックを放ったまま出発しようとした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!まだレックが悩んでるじゃない!」
「そうですよ。もう少し・・・」
女子二人組はレックの方に肩入れしているようだ。だが、グロウは聞く耳を持たない。
「これ以上こいつの決断待ってる暇なんざないんだよ。忘れたのか?俺達の存在が向こうに知れてる以上、ちんたらやってる暇ねぇんだよ。」
確かに、一同がハンスと遭遇してからここまで大きな時間が経った。これ以上の足止めは危険だ。
「でも・・・そんなのってないじゃない。故郷を滅茶苦茶にされて、一番の親友と戦えなんて。しかも失敗したら町が滅ぶかもしれないのよ!?」
アコはなお食い下がろうとするが、グロウはそれを無下に撥ね退ける。
「だからどうした。このまま選らばねぇで案山子になってりゃぜんぶ終わんのか?選びてぇもん選べる度胸もねぇヘタレは、こういった殺り合いじゃ真っ先に殺されるのが落ちだ。俺はそんな足手まといに付き合ってやるほど退屈してねぇんだよ。」
酷い言い様であるが、グロウはさらに続ける。
「そもそも、『人を守るために戦う』と言ったてめぇが、今迷ってる段階でアウトなんだよ。所詮てめぇは、てめぇのその信念は、その程度だってことだ。たかがミス一つで揺らいじまうほど脆い。綺麗事と蔑まされて当然だ。」
これ以上は何も語らず、グロウはレックに背を向けて歩き出した。周りも見えない力に引っ張られるかのようにグロウに続こうとした。
「もし・・・」
ここまで言われっぱなしだったレックが、ようやく口を開く。
「もしグロウが、今ボクと同じ状態に立っていたとしたら、グロウだったらどうする?」
「あぁ?知るかそんなもん。仮定の話につきあうつもりはねぇ。俺は、俺が納得いかねぇ理不尽をぶち壊すだけだ。」
「どんな状況でも?その結果何が起こっても?」
「聞くまでもねぇだろ。」
面倒くさそうに答えるグロウを見て、ようやく理解した。この男は、本当に何があっても自分の信念を曲げるつもりは微塵もないのだと。そして、ハンスもきっとそれと同じくらいの覚悟を決めているのだろうと。
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈