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ACT ARME 7 キレイゴト

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渋々ぼやけた視界をなんとかはっきりさせようとする。次第に、目の前に見慣れた顔が浮かび上がってきた。
「は・・・・んす?」
なんでハンスがボクの部屋に?はっきりしない頭で考えるが、そんな状態では何も考えられない。
まだ寝ぼけ眼のレックにいい加減しびれを切らしたハンスは、レックの肩を持ち大きく揺さぶった。
「いい加減目を覚まさないかぁ!」
前後に激しく揺さぶられる肩。その上についている首は、反動でより大きく揺さぶられる。
「わわわわわ!?わ、わかった!起きた、起きたから!」
あまりに強いその刺激に、却ってまた眠ってしまいそうなレックが、必死にハンスをなだめた。
両手がはなされ、ようやく落ち着いたところでレックも異変に気づいた。
寝る前まで自分は部屋の中にいたはずだ。なのに、今いる場所は見知らぬ森の中。そしてベッドではなくて寝袋の中で寝ている。
横を見ると寝袋がもう一つあるので、ハンスも同じ状態だったのだろう。頭元には膨らんだリュックが二つ。中を覗いてみると、携帯食料や着替え、固形燃料といったいかにもキャンプをしますといったアイテムが詰め込まれていた。
「これって、一体どういうことなのさ・・・?」
レックが呆然とつぶやく。
「わからねぇよ・・・。」
ハンスもまた、呆然としていた。
とりあえず、ここがどこなのかもわからない以上下手に動くことはできない。二人は夜が明けるのを待った。

そして夜が明け、もしかするとここは町の裏山の森なんじゃないかという二人の淡い期待は、無残にも打ち砕かれた。
やはり、ここがどこなのかは皆目見当もつかない。自分たちの町のことなら知らない場所なんて何一つない二人にとって、それはここが生まれてから一度も来たことがない場所であるという非情な証明となった。
「ここ、一体、どこ・・・」
レックは、やはり呆然とつぶやくことしかできなかった。ハンスも同じように呆然としていたが、突然立ち上がり大声を上げた。
「よし!家に帰るぞ!!」
突然の咆哮にレックは驚く。
「わわ!?突然大声なんかあげたら耳が・・・。」
「これで目が覚めただろ?だったらすぐに準備して家に帰るぞ。」
ハンスの断言に、レックは困惑する。
「でも、ここがどこなのかだってわかっていないんだし、そもそも、なんでボクらがこんなところにいるのかだって・・・。」
と、レックの弱気な発言を
「何へこたれてんだよ。オレたちは町で知らない奴はいない最強コンビだぞ?家ぐらいすぐに帰り着けるに決まってるさ。それに、家に着けばなんでオレたちがこんなところにいるのかもわかるはずだ。そうだろ?わかったらとっとと立て。行くぞ!」
ハンスは強引な鼓舞で一蹴した。
それでもレックはしばらくぽかんとしていたが、顔に笑みを作ると力強く立ち上がった。
「うん、そうだね。ボクらならきっと家に帰れる。
行こう!」
かくして二人は、見知らぬ森から家路に付くための旅を始めた。

旅路は、始めは大して苦でも無かった。リュックの中に詰め込まれていた食料は、できる限り節約して食べたことで二週間は持ったし、その二週間が経つ前に町にたどり着くことができた。
だが、町に入ることは自由だが、そこで宿に泊まることはできない。金の持ち合わせがないわけではない。むしろ二人が今までに持ったことがないほどの金が財布の中に入っていた。
これだけの金があれば、安いところなら一ヶ月は全く残金を気にせず泊まることができる。
問題は、泊まる際に身分証明が必要なこと。この国の住民なら老若男女関係なく身分証を持っている。当然、レックとハンスも所持していたはずなのだが、今はどこを探してもないのである。
故に二人は橋の下など、雨風をしのげる場所をその都度探す野宿生活を送ることとなった。幸いにも、やんちゃ時代に野宿の経験はしていたので特に問題なかった。
ただ、問題はほかにもあった。町の場所が分からないのである。町の治安支所(こちらの世界でいう交番)に町の位置を尋ねても、返ってくる回答は「わからない」だけであった。
もともと、シンプリティは大きい町ではない。それゆえに遠く離れた町などでは存在をほとんど知られてないことも珍しくないのだ。
しかし、町の住人がシンプリティの所在を知らないということは、ここがそれだけ遠く離れた町であるということを認識させられることになる。
そのため二人は、記憶の中に残っている大まかな故郷の位置と、もらった国の略地図を頼りに目指すことになった。
いくつもの町を通り抜け、野を歩き森の中を歩き、突然の豪雨にずぶ濡れになりながら雨宿りの場所を探し、獣や野党に襲われれば協力して撃退し、夜は二人身を寄せ合いながら眠りに就いた。


ある日の夜。その日は曇っていて、いつもより一層真っ暗な日だった。
眠っていたレックは、突如後頭部に激痛が走った感覚にとらわれた。まるで、頭を誰かに殴られたかのようだ。
激痛に喘ぎながらもなんとか目を開くと、はっきりしない視界のなかに誰かが数人いることに気付いた。よく見るとそいつらは、自分たちの荷物を手にしている。
こいつらまさか!そう思い立ち上がろうと動いた瞬間、鳩尾にきつい一発を食らった。
「ぁ・・・・・・ぅ・・・。」
普通だったらこんなやつらになんて決して負けたりはしない。しかし、寝込みを襲われ完全に不意を突かれている今、抵抗する術がない。今の鳩尾の一発で意識がもうろうとし、武器を手にすることさえできなかった。
どんどん暗くなっていく視界の隅で、ハンスも自分と同じように倒れているのが見えた。
翌朝、目が覚めたら、そこには燻ったたき火と武器以外、荷物も、財布も、何一つ残っていなかった。

あまりにも、あっけなさすぎた。

「ちくしょう・・・。」
地面にこぶしをつき、奥歯をくいしばるハンス。レックは、ただうなだれていることしかできなかった。
「ちくしょうっ!!!」
今度は、先ほどよりも大声が響いた。その勢いのままハンスは立ちあがり、どこかへと向かおうとした。
「ちょっと、どこ行くのさハンス?」
レックが弱々しい声で質問すると、刺々しい答えが返ってきた。
「聞くまでもないだろ。やられたからやり返しに行くだけだ。」
そのまま歩いていこうとするハンスを、レックは慌ててひきとめた。
「ちょ、ちょっと!無理だってその怪我じゃ!それに、あの野党がどこにいるかだってわからないじゃないか!」
「じゃあお前はいいのかよ!このままやられっぱなしで!あんな奴らに対して何一つやり返せないままで!納得できるのかよ!」
ハンスが激昂する。その親友の怒りに、レックは真っ向から向き合った。
「それはボクだって悔しいし、納得できないよ!でも、復讐したからって、それでいい結末が迎えられるわけじゃない!家に帰られるわけでもないんだ!     ・・・だからハンス。やめようよ。やられたらやり返したって、それでいいわけないよ・・・。」
レックの必死の訴えは、途中で声が掠れてしまった。しかし、それでも声は届いた。
ハンスは俯き歯を食いしばる。
「あーーーーーーーーーー!!!ちくしょうっっ!!!!」
そして一つ咆哮をあげると、
「レック!家に帰るぞ!何がなんでも!!絶対にオレ達は家に帰りつく!!!いいな!!」
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈