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ACT ARME 7 キレイゴト

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「レックも、例の法律によって故郷を捨てられた難民の一人だということ。係長さんは、さっきの男の素性を探っているうちに、偶然レックの素性も知ってしまったらしい。僕は、それをレックに伝えたら余計な動揺を与えると思って話さなかった。故郷が同じといえど、顔を知らなければ赤の他人同士だからね。」
肩をすくめ、そっけなく告白する。
「ところがその同じ故郷を持つ者は、数年ぶりの再会でもすぐに気がつくほどの関係だった、か。臭いものに蓋をしようとしたら、思わぬヤブヘビだったな。」
軽くなじるようなカウルの発言。アコもそれに続く。
「それって、もしあいつとレックが知り合いじゃなかったら、そのまま倒しちゃってたかもしれないってことでしょ?ちょっとひどくない?昔一緒の町に住んでいた人なんだよ!?」
徐々に熱くなり、声が大きくなっていくアコを、先程から座り込んでいただけのレックが抑えた。
「いいんだよ、アコ。」
「でも!」
「だから、いいんだって。ルインは、ボクの事を考えてそういう風な判断をしてくれたんだよね?ありがとう。」
と、本来ならば一番怒るべき人物に礼を言われ、ルインも戸惑う。
そんなルインをよそに、今度はレックが語りだした。
「ボクのせいでこんなことになってしまったのに、これ以上だんまりすることは卑怯だよね。
前に、アコやツェリライが『もう少し遠慮せずに暮らしたらどうだ』というようなことを言ってくれたよね。それを言われた時、嬉しかったよ。でも、多分ボクは、あいつのことがずっと気になっていたから、無意識のうちにみんなと壁を作ってしまっていたんだと思う。

あいつは、ハンスは、幼馴染みの親友なんだ。」
そしてゆっくり語りだした。自分の身に、かつて何があったのかを。自分が、ここにいるみんなと出会うまでの話を。




レックは、ラトリアでも隅のほうに位置する「シンプリティ」という町で生まれた。
他の町に比べ、シンプリティはあまり物や建物がなく、よく言えば自然豊かで目に優しい、悪く言えば何もない質素な町だった。
そんな町でレックは、幼馴染みの親友であるハンスとともに育った。
血気盛んで、相手がなんであろうとお構いなしに立ち向かっていく向こう見ずなハンスと、基本的に引っ込み思案でお人好し、ハンスが無茶な提案をした時には決まって「やめたほうがいいよぅ」と、小さな声で止めに入るレック。
一見真反対の性格で、どちらかといえば気が合いそうにない二人だったが、成長するにつれて町の中では行った場所などない、近所だけでなく離れた場所に住む住人にも顔を知られるぐらいのやんちゃボーイズになっていた。
朝、陽が差し込むと同時に跳ね起き、そのまま外に飛び出ようとしたところを母親に止められ、とりあえず朝ごはんを食べさせられる。そして作ってもらったお弁当を持ち出し今度こそ外に出る。
あとは日が暮れるまであちこちを冒険してまわる。それを繰り返す日々だった。
時々、裏山の森の奥に入りすぎて迷ってしまい、夜になっても家に帰れず、途方に暮れていたところを町が総出で捜索し、発見されたなんて事もあった。(勿論、そのあとで両親からこっぴどく叱られた)
家が近くだったので、互いの家に泊まり合うこともよくあった。
そして大きくなった二人は、武の才能が芽生えてきた。
年がら年中外を駆けずり回ってきた賜物なのだろう。他の子供達と比べ、レックとハンスは運動神経が良かったのだ。
そんな二人を見た親たちは、武術の稽古を二人に勧めてみた。
すると二人は二つ返事でやると、意気込み満々だった。やはり、強いものに憧れるというのは男の子宿命なのだろう。
稽古を始めた二人は、みるみるうちにその才能を開花させていった。相手が年上であろうと体が大きかろうと果敢に挑み、勝ちを収めることもあった。
めきめきと実力をつけていく二人に、ある日師範がこんな質問をしてみた。
「なぜ二人はそんなにして力を身に付けようとするのか」と。
すると二人は、さも当然のように息ぴったりでこう答えた。
「もちろん、強くなって弱い人たちを守り、助けたいからだ」と。
まるで打ち合わせをしたかのような異口同音に、思わず師範も吹き出し、お前たちならそれができると太鼓判を押した。


そんな、ある日のことだった。
突如閑静な町がにわかに騒がしくなった。裏山から、体長が2メートルに及ぼうかというほど巨大な獣が下りてきたのだ。獣は飢えていたのか、店先の商品を食い荒らし、それを見てあわてて逃げる人たちに興奮し、そこらにあるものをやたらめったらに体当たりで破壊して回った。幸いにも、まだ大きな人的被害は出ていない。しかし、それが出てしまうのも時間の問題だった。
それを知った二人は、親の目が離れたすきに家から抜け出し、合流した。
そう、自分たちの力を人を守るために使う。それを今から実行しようとしていたのだ。
裏道を回り、人づてに聞いた獣の居場所へと向かう。そして獣を見つけた二人は、想像よりも大きいその姿に尻込みした。
実際に敵の姿を目の当たりにした二人は「いくらなんでも相手が悪いよ。戦わないほうがいいと思う。」と、レックはそこからさらに引け腰になったが、しかしハンスは「何言ってるんだ。ここで戦えなかったらあの時の言葉が嘘になるだろうが。」と一蹴。立ち向かおうとする気力を無くさなかった。
それを聞いたレックは、それでもまだ怯え越しではあったが、ハンスの言う通りかもしれないと、覚悟を決めた。

二人は暴走する獣に、果敢に挑んでいった。だが、如何せん力も、体躯の差も、速さも、ありとあらゆる面で負けている二人がいくら束になってかかろうとも、所詮敵うはずがなかった。
挑んでからすぐに劣勢に陥った二人は、流石にまずいと逃げようとしたが、最初に飛びかかった一撃目で下手に刺激してしまい、さらに興奮した獣の前から逃げることができなかった。
「うわぁあああ!」
獣がレックに向かって全速力で迫ってくる。レックは悲鳴を上げながら防御するしかなかった。
「レック!」
そんな親友のピンチに、ハンスは一切躊躇せず、渾身の力を込めて獣の顔に一撃を与えた。
すると意外なことに、獣はうめき声をあげ、その場に倒れこんだのだ。どうやらハンスの放った一撃が、獣の急所にうまく当たったようだ。だが、この一撃が獣を怒らせた。
すぐに起き上がった獣は、自分に痛い一撃を与えてくれたハンスを力任せに突き飛ばす。飛ばされたハンスは凄い勢いで宙を飛び、そのまま壁にたたきつけられ、動かなくなった。
「ハンス!」
レックが呼びかけるが、親友はそのまま動かない。
どうしよう、どうしようどうしようどうしよう!?今眼前に広がる光景に、レックは動揺して動けなくなる。
だがその時、獣は自分を痛い目にあわせた憎き敵にとどめを刺そうと、ハンスに向かって全速力で突っ込んでいくのを見た。
このままじゃ、このままじゃハンスが!
その思いがレックの中に潜んでいた怯えを吹き飛ばした。
「うわあぁあああああああ!!!ハンスううううううううう!!!」
我武者羅に親友の名を叫び、獣の前に立ちはだかった。
その圧倒的威圧感にも決して負けず、レックは自身の得物を、全身全霊を込めて叩き込んだ。


「う・・・ん。」
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈