ACT ARME 7 キレイゴト
突然レックは武器を手にし、相手に飛びかかっていった。
そのあまりにもらしくないレックの行動に、全員虚をつかれた。
「ちょ!?レック!?いきなり得体の知れない相手に飛びかかるのはアホのすることだよ!?いや、どう見ても知り合いっぽいけどさ!!」
と、まさかのルインがレックに対してツッコミを入れるという、前代未聞の事態まで起こった。
だが、そんなとてつもなく極々稀なルインのツッコミも、完全に冷静さを失っているレックの耳には届かない。
「ハンス!!君はっ!君は何をやっているんだよ!!」
激しくぶつかり合いながら激しい怒声を上げるレック。ハンスと呼ばれた相手も負けじと怒号で返してきた。
「それはこっちのセリフだ!この腑抜けヘタレが!!」
「君は、自分が何やろうとしているのかわかっているのか!!」
「お前こそわかってんのか!!クズ相手に復讐もできずにヘタレやがって!挙げ句の果てにはそのクズの犬になりやがったか!プライドも意地も何もかも捨てやがって!!お前のいい子ぶりっ子には吐き気がするんだよ!」
「違う!ボクはそんなつもりは一切ない!!ボクは・・・ボクは!これ以上理不尽に辛い目に遭う人たちを見たくないだけだ!!!」
「それがいい子ぶりっ子だって言ってんだろうがああああ!!!」
互いに叫び合いながら激しい応酬を繰り広げる。戦闘そのものは他者の介入などとてもできないほど苛烈なものだったが、口喧嘩の方はまるで、意見が食い違って言い争いをしている小学生のようだった。
こんなに落ち着きをなくし、感情の赴くまま暴れるレックなど、今まで誰ひとり見たことがない。全員呆気にとられて固まってしまった。
「ちょ、ちょっと。何がどうなってるの?なんでレックはあんな・・・。」
固まった状態のまま、混乱中のアコが疑問を口にする。
「どうやら、こちらの予想が当たってしまったようですね。嫌な予想ほど的中率が高いというのは、悩ましいものです。」
「予想?」
「ええ、恐らくレックさんは・・・」
そのまま続けようとしたツェリライの口を、ルインが塞ぐ。
「ストップ、ツェル。その先の話はレックも交えて話さないと。他人の過去を無闇やたらに暴露するのはいい趣味じゃないよ。」
窘められたツェリライは素直に口をつぐんだ。
「そうですね。失言でした。 ・・・ですがルインさん。あなた確かアコさんの過去を、レックさんに話したような記憶があるのですが?」
だが、相手の痛いところを突くことは忘れない。
「さて、どっちの勝利で決着がつくかな。どちらにせよ僕らは首を突っ込めそうにないから、レックが勝つことを祈るばかりだね。」
ツェリライのジト目から、カメレオンの舌の如き速さで顔をそらしたルインは、戦況を分析する。
結論をいえば、レックの方が優位に立っていた。ハンスの攻撃が自分にダメージを与える前に先に自分の攻撃を加えている。戦闘時間が増えるほど、その様子が顕著に現れてきた。
「ハァッ!!」
「ガはっ!」
腰を入れたレックの一撃が、ハンスの腹を突いた。
そのまま地面に倒れ込んだハンスを見下ろしたまま、レックは肩で息をする。
「レックさん・・・。」
ハルカがか細い声を漏らす。それで我に返ったのか、荒い呼吸をゆっくり時間をかけて落ち着けたあと、レックはようやくこちらを振り返った。
「ごめん、みんな。勝手をしてしまって。」
一言謝り、立ちすくんでいる仲間たちのところへ戻ろうとする。
その時だった。
「・・・甘いんだよ。」
その声を聞いたレックが再び振り返るより早く、倒れたままのハンスの一閃が、レックの背中を掠めた。
「うっ・・!」
しかし、不意打ちはレックの背中を掠めただけ。傷はついたが、さほど大きなものではなかった。
だが・・・
「氷結爪(コンデセイション)。」
その時、ビキィッ!!と音がするほど激しく、一瞬のうちにレックの傷が凍りついた。
「ッッ!! ガァアああアァあァああぁァ!!!」
その激痛に、レックは絶叫し、その場に倒れこんだ。
「レック!!」
仲間が駆け寄る。
「こいつ、水のアトリビューター。氷使いか!」
それに答えるように、立ち上がったハンスは槍の先に青白い冷気を纏わせた。
「お前はいつもそうだ。だからオレに勝てないんだよ。」
そう吐き捨てたあと、そのままハンスは立ち去ろうとする。
「逃がすか!」
逃走を阻止すべく、カウルがハンスに跳びかかる。
それに対しハンスは地面に槍を突き刺した。するとそこから、ハンスの体を完全に隠すほど大きな氷柱が立ち上がった。
カウルの拳は、そのまま氷柱を砕いた。だが、その向こうにハンスの姿はない。
「! 下か!」
カウルが気づいたときにはハンスは槍を構え、カウルへ向けて放っっていた。
「ッ! うォおおおおお!」
間一髪、そのまま跳躍してハンスを飛び越した。
その隙にハンスは瓦礫を飛び越え、その向こう側に姿を消そうとした。
だが、その空中にいる隙を狙い、フォートが発砲した。だが、フォートが発砲するよりも早くそれに気づいたハンスは、自分の前で槍を一回転させ、氷の膜を作り出した。銃弾は氷の膜を破壊したが、ハンス自身までは届かなかった。
傾いた陽の光を受けてきらめく氷の破片を残しながら、ハンスはそのまま姿を消した。
「レックさん!しっかりしてください!」
すぐさまハルカがレックの背中に凍りついた氷を溶かす。
「あ、あたしも手伝う!」
アコも加勢し、手当を行った。
数分後、傷の氷は完全に溶け、傷も大体癒えた。それまで苦しそうに喘いでいたレックも、落ち着きを取り戻したようだ。
それを確認した一同は、これからどうするかを決めることにした。
「こっちの動きが漏れた以上は、あいつらはすぐにでも動くと考えて間違いねぇ。このままアジトに攻め入って潰す。」
「そうですね。相手はプロメテウスという兵器一つで、物理と情報、二つの爆撃スイッチを手にしているようなものです。一刻も早く対処しなければ、取り返しのつかない事態を招いてしまう可能性が高いでしょう。」
皆の意見は、概ね突撃するということで一致した。
「うん、それが一番リスクが少ないかな。レックが回復し次第、一気に行こうか。」
「いや、すぐに行こう。ボクなら大丈夫だから。」
ルインの言葉を遮るように、レックが立ち上がった。
「何言ってんの。グロウじゃあるまいし、怪我してすぐにホイホイ動けるようなゴツイ体してないでしょうが。」
ルインがそう言って止めるも、なおレックはなお今すぐ向かおうと強情に突っぱねる。
「レック。」
今度は少し凄みを帯びて睨みつけた。レックはまるでメデューサに睨まれたかの如く固まり、そのまま俯いて大人しく座った。
「ごめん。」
「別に謝る必要なんてないよ。レックがさっきかららしくないことばっかやってる理由もわかってるし。むしろ、どちらかといえばそれを先に伝えなかった僕の判断ミスのせいでこんなことになったわけだしさ。」
「判断ミス?」
一部から上がった疑問の声に、ルインは一瞬座り込んでいるレックを気にかけたが、それでも全員に打ち明けた。
「さっきのハンスとかいう男とレックは、生まれ故郷が同じなんだよ。」
「それって・・・」
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈