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ACT ARME 7 キレイゴト

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「一応表向きは国と民の生活の保全のため、ということになっていますけどね。現に数十年前のラトリアは、そうしなければならないほど困窮していたことも事実です。」
「だが現在では産業も発展し、以前ほど財政が追い詰められているわけではない。故に貧困にあえぐ町を棄てる必要性もほぼ皆無だ。」
「じゃあ何で無くさないのよ!」
と、さらにヒートアップするアコに、ルインが冷や水を浴びせかけるように続けた。
「法律の改変っていうのは、簡単なことじゃないからね。一つ法律を変えようとすると、それに関連するほかの法律も改変しなきゃなくなる。それにはびっくりするほどの時間が必要とされる。
そんな重い腰を上げるくらいなら、理由もくそもへったくりもなしに、国民にこの法律は必要だと刷り込んだほうが手っ取り早い。
時代は変わっても法は変わらず。古き良き国の悪弊だね。」
「何よ、それ・・・」
アコが言葉を失う。
「要はてめぇらの怠慢で起きたヘマの始末を、俺たちにやらせようって腹だろ?冗談じゃねえ。てめぇらのケツは自分で拭きやがれ。この際だ、いっそ薄汚ねえ政府は滅んじまえよ。その方がせいせいすらぁ。」
グロウが吐き捨てる。
「まあ、依頼してきた係長さんに罪はないからね。この法律の存在を仕方がないって言ってた時は、くさやを無理やり口に突っ込まれてたような顔してたし。それに、ほったらかしにしたら薄汚いどころか人の住めないほど汚くなるだろうしね。」
「すぐに出立するのか?」
「うん、準備ができ次第行こうかな。あ、あと今回は強制参加じゃないから、アコちゃんはハルカちゃんは留守番しててもいいよ。」
と、珍しくルインが譲歩したが、
「いや、あたしも行くわ。」
「私も行かせてください。少しでも、テロリストの方たちの思いを和らげてあげられたら・・・。」
と、双方行く気のようだ。
「そっか。じゃ、七人で行こうか。」
「七人?そういえばレックは?」
と、物凄く今さらだが、アコがレックの安否を問う。
「ああ、レックは今体調不良で・・・と。」
ルインが皆まで言う前に、レックが上階から降りてきた。
「ん?レック。気分はもう大丈夫なの?」
「うん、だいぶ良くなったよ。」
そいう言う割には、確かに顔色は先ほどよりは良くなっているが、お世辞にも良好とは言い難い。だが、そんなことはお構いなしにレックは降りてきた。
「気を遣わせてごめんね。でも、ボクは行かなければいけないんだ。」
優れない顔色の中でも、しっかりとした意志が垣間見える。
「そっか。ま、無理しない程度にね。じゃ、いつも通り八人で行こうか。」
そして、八人全員で家を発った。


出発してからしばらく経つと、賑やかな喧騒と人気のある建物群が唐突になくなり、さらに歩いていくと代わりに見えてきたのは、賑やかという言葉とはまるで無縁な静寂と、人気どころか人が住むことすらできないてあろう朽ちた建物群だった。
空は真に晴天のはずなのだが、どことなく灰色がかっているように見える。
「キブの近くに、こんなところがあったなんて・・・」
ハルカが少し怯えるようにつぶやく。
「地図ではこの場所は抹消されてるからね。便宜上ソンカン地区なんて名称はついてるけど、ラトリアという国にこの場所は無いことにされてるんだよ。」
「因みに、この地もかつてはキブと同じような町でした。が、例の法律により切り捨てられ、約二十年経過した今ではこの有様です。」
「・・・ここに住んでいた人達は、どうなったの?」
「基本的に捨てられた町の住人に与えられる選択肢は二つ。そのまま町にとどまり死を迎えるか、周囲からの差別を覚悟で持ちうる財産を使い他の町へ移住するか。どちらにせよ、茨と形容するには易しすぎる未来が待ち受けているでしょう。」
レックが不調の原因を薄々感じとっているツェリライが、レックのことを気にかけながら話す。
「・・・例外的に、あて無き放浪旅に出るという選択肢もあるだろう。だが、それを選ぶには相応の技術と経験が必要だ。簡単な話ではない。」
同じくレックの不調の原因を感じ取っているフォートが言葉を続ける。
事情を知っているルインには、その言葉に含まれた意味に気づいたが、当事者であるレックは何も反応を示さなかった。この様子を見ると、レックは自分のことを話すつもりはないようだ。
ルインは、係長の口からレックの過去を少しだけ知っているが故に、これから先に起こるかもしれない未来に若干不安を抱く。
レックに伝えるべきなのか・・・。だが、精神が不安定な今事実を伝えたら、間違いなくレックは激しく動揺するだろう。いや、だろうを付ける必要はない。間違いなく激しく動揺する。
それだけならまだ問題ないが、その動揺が予想だにしない行動を引き起こし、そのまま一番迎えて欲しくないバッドエンドへまっしぐらになってしまっては目も当てられない。
とりあえずレックには、アコのフォローとかをしてもらって、直接相手と闘り合うのは自分を含めたいつもの前衛組でいいだろうと、そう踏んでいた。


「・・・止まれ。」
不意にフォートが一行を止めた。
やや傾きかけた陽を背に、瓦礫の上に立っている影が見えた。逆光で顔はよくわからない。手には、影の身長と同じくらい柄の槍を手にしている。
「お前らが侵入者か。こんな瓦礫しかないところになんのようだ?」
相手を威圧するような刺々しい声。全員すぐに構えたが、レックだけは困惑した表情を浮かべた。
だがそれには誰も気づかず、ルインが返答した。
「いや何ね。ここで今なんだか非常に派手で面白可笑しそうなことをやらかしそうな輩が出没しているって話聞いてね。お小遣いもらうかわりにお使いに来たんだよ。相手は槍(スピア)使いって事は聞いてるからおそらく確定だけど、念のため降りてきてもらっていいかな。そこだと逆光でよく見えないんだよね。」
そう頼むと、意外なことに相手は律儀に瓦礫の上から飛び降りてきてくれた。
「うん、間違いないね。こいつがテロリストの一人だ。」
係長から渡されたモンタージュ写真と見比べたルインが太鼓判を押した。
剣山のように逆だった髪にきつい印象を与えるツリ目という容姿は、その筋の者だと言われても納得できる。心なしか、身体の周囲が冷ややかな空気も漂っている気がする。左手首には、青いリストバンドを身につけていた。
「お前らクズの犬か。オレたちを殺りに来たのが目的か。」
ルインたちの素性を察したとたん、相手は殺気を剥き出しにして得物をこちらに向けてきた。
「おっとっと。ちょいたんま。あんたの言ってることは半分ぐらいしかあってないよ。確かに僕らはあんたたちを止めてくるよう言われたけど、何も殺せとは言われてないから。」
「信用すると思っているのか?」
ルインの説得は無意味のようだ。相手はさらに殺気を強める。
一足触発の緊迫した空気が流れる。



「ハン・・・ス?」
膠着した状況を破ったのは、先程まで一言も喋らなかったレックの一言だった。
振り返ると、そこには棒立ちで立ちすくみ、目を見開いているレックがいた。
相手もレックの姿を認め、驚いたように目を大きくした。
「おまえは・・・」
「やっぱり、ハンスなんだね・・・。    っ!!」
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈