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ACT ARME 7 キレイゴト

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「ああ。ありがとうな。だが、火を消すだけなら別に回復効果を持たせる必要はなかったんじゃないのか?俺たちの怪我はそこまで大したことはないんだから。」
感謝しながらもカウルが質問すると、アコは黙ってある方向を指差した。
その先をたどると、既に人としての原型をなくしたナポレヌフの遺骸があった。
「あのまま消し炭にしといたままにするのは、かわいそうじゃない。」
俯き、そっぽを向きながら呟くアコ。その目には、降り注いでいる雨とは違うものが溜まっていた。
「優しい奴だな。俺たちは今さっきまでコイツに殺されかけていたんだぞ?」
少し意地悪げにカウルが質問する。
「それでもなの!この人に昔何があったかはわからないけど、それでも、元からこんな風じゃなかったんでしょ?今を楽しく過ごしてるあたしがこんなこと言ったってこの人は嬉しくともなんともないだろうけど、  やっぱり・・・可愛そうだよ。」
その純粋な想いに、カウルは眩さを感じると同時に少し寂しくなった。
いつからだろう。自分が人を殺すことを躊躇わなくなったのは。そしてなくした感情をハルカの中に見出して埋め合わせるようになったのは。
そこまで遠い昔の話ではないが、とても懐かしく感じる。
っと、今は感傷に浸っている場合ではない。今はあのケースの中に入っている危険物を回収し、レックの帰りを待たなければならない。
プロメテウスの方はツェリライ達がどうにかするだろう。自分は恐らくぼろぼろになっているだろうレックのもとに迎えに行くことにした。
アコに一声かけ、その場をあとにしようと背を向けたその瞬間、再び激しい振動と爆音が轟いた。
「なんだ!どうした!」
そうカウルが叫んだ瞬間、再び爆音が響く。爆発しているのは、どうやら建物の壁からのようだ。
「これはまずいです!!」
ツェリライが警鐘を鳴らす。
「この建物一体に時限式の爆弾が埋め込まれています!恐らく、先ほどの自爆スイッチと連動していたのでしょう!すぐに退避する必要があります!」
「いや、といってもこれどうにかしないと!もっとやばいことになるじゃん!?」
アコが慌てる。その通り、このままでは今はまだケースの中にあるプロメテウスに火が回る。いや、相手は壁の中に爆弾を仕込むほどの狂人だ。周辺装置の爆破=プロメテウスの起爆となっていても何ら不思議はない。
早急に手を打たなければならない状況。だが、火の手が回る方が早い。今のアコのコントロールでは、これだけの火を消すことはできない。
「!!!   みなさん!危ない!!」
荒れ狂う炎の中、僅かな気流の変化を感じたハルカが異変を察知し、上を見上げると同時に叫んだ。
そのほんの数秒後、天井が崩落してきた。



「ハンス!大丈夫!?」
突然の激しい揺れに二人が飛び起きた直後、壁が天井が崩落してきた。
その一瞬、ハンスに突き飛ばされたおかげで大した怪我をしなかったレックが、瓦礫の向こうに姿を消したハンスを探した。
「ハンス!!!」
ようやく姿を見つけた親友は、多くの瓦礫の下敷きとなっていた。
レックは駆け寄り、すぐさま瓦礫をどかし始めた。幸い、そこまで大きな瓦礫はない。何とかどかしきれるはずだ。
爆音も振動も一切気にせず、レックは一心不乱に瓦礫をどかし続ける。
「ハンス!しっかり!あと少しだから!」
レックはおそらく気絶しているハンスに必死に呼びかけながらも、腕を動かす。
そしてようやくあと一つ、この瓦礫をどかせばハンスを救出できるところまで来た。
だが、そのあと一つが今のレックにとっては大きく、重かった。
押しても引いてもびくともしない。棍をつっかけて、てこの要領でどかそうとしてもだめだった。
「動けぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」
体の芯から声を出し、力を振り絞る。それで、ようやくほんの少しだけ動きを見せた。
だが、それ以上が無理だった。
それでもなお諦めないレックに、声が聞こえた。
「もういい、レック。お前は下に行け。」
「何言ってるんだよ!そんなこと、するわけないじゃないか!」
「このままだとプロメテウスが起爆するだろうが。そうなったら、オレを助けたところで意味なくなるだろ。」
「下は心配しなくて大丈夫だから。絶対に、皆が何とかしてくれているはずだから。だから、諦めちゃだめだ!」
レックは、自分自身に鼓舞するようにハンスを励ます。
刻一刻と時間が過ぎる。焦りばかりがつのる。動いてくれという思いは時間とともに大きくなるが、振り絞れる力は小さくなる。
力を振り絞りすぎたせいで酸欠状態になり、へたり込んでしまった。性も根も尽き果てた今の自分の体。火事により酸欠状態となった今のこの場。これをどかすには、状況が悪すぎる。
なら、自分一人がだめなら、仲間を呼んでくればいい。
「ハンス。少しだけ待っていて。今すぐ仲間を呼んで、助けるから!」
そして背を向けようとしたとき、ハンスが何か呟いているのが見えた。
「ハンス、どうした!?」
声が小さくてはっきり聞こえない。ハンスの体力も限界だ。何を言っているかを聞いたら、すぐに行かないと。
「・・・お前は、お前のその綺麗事におぼれてから死ね。」
「ハン・・・ス?」
何そんな遺言のようなことを言おうとしているのだと、そう言おうとしたその時、レックが立っている床が崩れ落ちた。
「ハンッ・・・!」
体が後ろに傾いていく中、レックはハンスに手を伸ばした。
その手は、ほんの僅かに指先が触れ、離れた。
「ハンスウウウウウウウウウウウゥゥゥゥ・・・・!!」
レックそのまま、真っ逆さまに落下した。



遠くから声が聞こえる。耳をすませると、その声はどうやら自分を呼び掛けているようだ。
その呼びかけに答えようと声を上げようとするが、その声が出ない。いや、それ以前に体が動かない。前も真っ暗だ。
自分を呼び掛ける声はいまだ聞こえる。レックはもう一度、力を込めて答えようとした。
それでようやく視界が開けた。そこに映っていたのは七人の仲間たち。どうやら外にいるようだ。
「あ、レック。ようやく目を覚ました。」
「う・・・ん。」
レックが目を覚ましたことを確認したルインに、何か答えようとするレックだったが、おぼろげな返事しか返せなかった。
「無理はしないでください。あなたの体はかなり憔悴しています。寝た状態のままで構いませんよ。」
そうツェリライは言ってくれたが、今どういう状況なのかを知りたいレックは起き上がろうとする。が、無理だった。
「だから、無理はだめだってば。おとなしく寝転がってて。」
そう宥められても、落ち着かない。
その様子を察したルインは、ぽつりと伝えた。
「プロメテウスの起爆は、阻止できなかった。」
「え・・・?」
想像しなかった言葉に、レックは固まる。
「あのプロメテウスは、どうやら下にいた男が自分で作ったものらしい。」
「プロメテウスの構造は、知っている方は知っています。ですが、その製法は国家機密です。個人が製作できるようなものではありません。」
「その結果、プロメテウスは爆発するには爆発したが、その威力は廃ビル一つを焼き尽くす程度のものでしかなかった。」
「そう・・・なんだ。」
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈