ACT ARME 7 キレイゴト
その数分にも感じる数秒後、両者は前のめりに倒れた。
だが、倒れ方は違った。ハンスは膝をついているが、レックはうつ伏せに倒れている。
まだ決着はついていない。どちらか片方が負けを認めない限り、決着がついたとは言えない。
そして、まだ二人共、負けを認めてはいない。
ハンスが武器を杖替わりにして立ち上がる。レックも何とかして起き上がろうと努力した。だが、やはりハンスの方が早い。
ハンスはレックのそばまで寄り、大きく振りかぶり、今残っているありったけの体力で振り下ろした。
レックは片膝を付いた状態のまま受け止める。だが、ただでさえ不自然な体制な上に、体力が危険域に突入している。それでもなんとかこらえようと必死に押し返す。
「どうしたレック!?それで終いか!!?」
徐々に槍の穂先がレックの顔に近づいてくる。
「っっっ!!ぅっぉおおおおおおおお!!!」
負けられないという思いがレックの体に力を与える。そのままハンスを押し飛ばした。
もう体力はほとんどない。だが、まだ気力はある。この戦いだけは負けられないと。是が非でもハンスをここから連れ出したいという思いから成す気力は残っている。
レックは、その気力すべてを使い、武器に孔を込めた。
棍に点った小さな炎は、みるみるうちにその大きさを増していき、一定の大きさまで燃え上がると、炎の周囲が熱によって歪んで見えた。そのせいか、レックの棍に灯る炎が青く燃えているように見えた。
いや違う。それは錯覚ではない。本当に青い炎が猛っている。
「お前、 それは・・・」
「炎っていうのは、温度が増すと、青く燃えるんだ・・・!」
驚くハンスをよそに、レックは青い炎が猛る棍をひと振りし、ゆっくりと突きの構えを取った。
「これがボクの全身全霊だぁ!!!」
悲鳴を上げる体を押さえつけ、レックは一直線にハンスに突っ込んでいった。
「蒼魂龍棍(ソウルドラゴン)!!」
ハンスではなくレックから放たれた青い一閃は、レックではなくハンスを貫いた。
「・・・今度はもう、やられたフリなんかじゃないよね?」
またうつ伏せに倒れこんだレックは、背後の、いや足元にいるハンスに問いかけた。
「・・・・・・ああ。」
聞かれたハンスはこう答えるので精一杯だった。ハンスもまた、起き上がる力を失い、仰向けに倒れていた。
「・・・ハンス。」
「なんだ?」
「ボクと一緒に来てくれないかな?」
「・・・嫌だと言ったらどうするつもりだ?」
「そんなこと言わせないよ。だってボクが勝ったんだから。強引に引きずってでも連れて行く。」
「・・・お前も言うようになったな。」
「ハハ。まあ、無理も道理もまとめて足蹴にするような仲間が、近くにいるせいかな。」
「お前と一緒にいた、あいつらか。」
「うん。本当に滅茶苦茶なんだよね。勘違いで治安部隊に喧嘩売ってしまうし、人質を取った強盗に対して奇襲で特攻をかますし。」
「・・・なんだそれ?」
「ハハハ。本当に何なんだろうね。 でも、それは自分の信念があって、それを真っ直ぐ貫いている結果なんだよね。ボクは、そんなみんなに背中を押されたからハンスに勝てたんだ。」
「随分信頼しているんだな。」
「まぁ、信頼というよりは、憧れに近いのかもしれないけどね。だから、ハンスも一緒に来ようよ。」
「本当にそれができるのか?未遂とは言え、仮にもオレは国際級犯罪者だぞ?」
「未遂なら大丈夫。ルインが何とかしてくれる気がする。ルインは治安部隊の結構偉い人とコネがあるし。いざとなったらツェリライが情報操作してくれるだろうから。」
「・・・なあ、それは結構ヤバイ違法行為なんじゃないのか?」
ハンスが思わず、自分の立場を忘れてつっこんだ。
「う〜ん・・・。いやまあそうなんだけどね。既に一人そういう例があるからなぁ。だからきっと大丈夫だよ。」
「そう・・・・・か。」
やはりそう簡単にこれまで積もり積もった思いと、そのために踏みにじってきたものに対する罪悪感が残っているのか、ハンスは煮え切らない返事を返す。
レックは、やっとのことでうつ伏せから仰向けに寝返り、話を続けた。
「わかっているよ。ハンスがはっきり頷けない気持ちも。でも、きっとこのままじゃその気持ちはなくならないよ。一時の感情は時間が経てば薄れるって言うけど、きっとハンスのその気持ちは薄くならない。
だってハンスは、根は真面目なんだから。だから、その気持ちをなくすためじゃなくて、その気持ちを乗り越えて塗り替えようよ。」
「また都合のいい綺麗事だな。本当にそれができると、お前自身はそう思っているのか?」
「勿論だよ。だってボクらは、町で知らない人はいない最強コンビなんだから。でしょう?その証拠に、ハンスはそのリストバンドを今もまだ付けたままじゃないか。」
ハンスの呆れ声の質問に、レックは見えなくてもお構いなしのニカッとした笑顔で答えた。
「これは、ボクはハンスのお母さんに、ハンスはボクのお母さんに作ってもらった、世界に二つしかないものだから。ボクとハンスが最強コンビだという証だから。それをまだつけてるってことは、ハンスもまだそういう風に思っているってことだろ?」
地味に嫌なところを突かれてしまった。レックの言うとおり、このリストバンドは町内の戦技大会でレックとハンスがタッグ戦で優勝した際に記念として作ってもらったものだ。
あれから全てを捨てて歪んできたと思ったが、どうやら自分もまだまだ甘ちゃんだったらしい。
ハンスは何とも言えないため息をついた。
「はぁ。ま、負けた以上文句は言えないか。わかった。ただ、下にいるもう一人をどうにかしないと・・・」
その時、床が、廃ビル全体が激しく揺れだした。
それは、フォートが相手を撃破した後のことである。
ブレイクダウンした銃器類は、爆発して飛散した。その爆発でプロメテウスに誘爆してしまうのではないかという心配は、杞憂で済んだ。
ルインは、持っていた重火器が爆発したため吹き飛ばされたナポレヌフのそばに行く。その時
「ク・・・クハハハハハハハハ!!」
そう発狂したかと思うや否や、自らが来ている服を引きちぎった。
そこには、体一面にダイナマイトが巻きつけられてあった。
「!!」
「余の手より生み出し破世の種よ。まとめて、全てを吹き飛ばせ!消しつくされ!!」
「やばっ・・・!」
間に合わない。一瞬でそう判断したルインは、咄嗟に思いきり後ろに飛びのいた。
それとほぼ同じタイミングで、ナポレヌフの体が爆発した。
「うわっ だぁあ!!」
辛うじて爆風に飲まれることを防いだルインだったが、同時に今の爆発で建物自体に火が燃え移ったことで、誘爆する危険が大きくなった。というか、今のままだと確実にそうなってしまう。
「やばいぞこれは。」
「は、早く何とかして火を消さないと・・・!」
ハルカの風では力不足だ。却って炎を大きくしかねない。
「あたしがなんとか! 水霊(ヴァルナ) ヴェファイシュテンリーギン!」
アコの呼びかけに、室内であるにもかかわらず大粒の雨が降り注いだ。
「この雨はみんなの怪我とかも治せるから、とりあえず浴びといて。カウルとかは何発か当たっちゃったんでしょ?」
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈