ACT ARME 7 キレイゴト
「まあ、気持ちは分からなくもないけど。その悲願とやらを達成されたら僕らが明日から住む場所無くなるんだよね。というわけで、力ずくでも奪わさせてもらうよ。」
「やってみるがいい。 決して叶わぬことだがな。」
そう言い放った直後、背後にある装置から大量の重火器が出現し、一斉射撃を始めた。
「炎舞乱(エンブレム)!!」
「凍狂槍撃(フロスディソード)!!」
互いの乱撃が入り乱れる。ぶつかりあった炎と冷気は、今度は混じり合って蒸気とはならず、互いに打ち消しあい、そのまま消えていく。
意地と意地のぶつかり合い。弾かれたのは、レックだった。
すぐさま体勢を立て直し、棍の先端に込めた炎を打ち出す。
「焔弾(フレイガン)!」
ハンスも槍の先端に氷の刃を生み出し、飛ばしてくる。
「氷針(フロートランス)!」
激突した刃と弾丸は、刃が勝った。
「ぐわっ!」
氷針を受けたレックは、仰向けに飛ばされ、床に叩きつけられた。
「ふん、やっぱりな。お前は所詮その程度だ。」
ハンスがとどめを刺さんと歩み寄る。だが、ハンスがレックの元にたどり着く前に、レックは棍を手が掛かりにして立ちあがった。
「・・・ハンス、あの頃よりずいぶん強くなったね。今のボクじゃ太刀打ちできそうにないよ。」
「それがオレとお前の差だってことだよ。お前は生ぬるい綺麗事の中で善人面してのうのうと過ごした。オレはあの日からずっとこの国に対して怒りを抱いて生きてきた。これがその結果だ。」
暗くよどんだ眼。ああ、確かにあのころと比べてハンスは随分と変わった。
変わった・・・。 でも。
「ハンスは確かに強くなった。でも、その強さは本当にハンスが望んだものなの?その強さで、本当に人は守れるの?憎しみに駆られて、国を破壊して、そこに人がいなくなったら、ハンスは、これからどう生きていくつもりなのさ?」
ハンスの表情が、憎々しげに歪む。
「本当にお前は、綺麗事を吐き続けるんだな。 ・・・本当に、ムカつくやつだ!」
ハンスが槍を振り上げ、そのまま力任せに振り下ろす。
レックは、負けじと受け止めた。
「例え誰に蔑まされても、ボクはボクが決めた綺麗事を貫き続けるよ。」
「そこまでお前が、恨みを潰してまで貫こうとするのは何故だ!」
ハンスの問いかけに、レックは決然と返した。
「ボクがそうしたいと、そう心から思えることだから。そして、
奇麗事が奇麗なのは、それが理想だからだ!」
今度はレックが力で押し切り、ハンスを弾き飛ばした。
「ボクは本気だよ。ボクは、自分の綺麗事を貫くために、全力で君を倒す!」
もう迷わない。そう腹を括ったレックに、へこたれる暇なんてない。今目の前の親友が凶行に手を染めないように。そして、かつて何一つ臆面もなく言い切ったあの時の決意を、もう一度思い出して欲しいから。
「ボクは、絶対に負けない!」
レックは吼える。
そんなレックの姿を前に、ハンスは自分の勘違いを訂正する。
あの頃から変わっていない。それは確かに間違いない。だが、それでも大きく変わっていた。
昔は自分の言うことに、怖気付きながらもついて来ていたレックが、今こうして自分の目の前に立ちはだかっている。憎しみと恨みの前に自分が捨てた思いを、なお抱きつつ。
多分コイツは、無意識のうちにそうなっているのだろう。自分の性根の部分は決して変わらず、傍から見れば愚直とも言えるほど頑固に貫き通す。
それが、ハンスには妬ましかった。あの日以来、歪み続けてきた自分と違い、レックは今なお変わっていない。自分の都合のいい部分だけを変化させることができた、自分が放棄したことを今なお続けようとしているその姿が、
心底、妬ましかった。
「レェェェェェェェェェェェェェェェェェック!!!!」
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァンス!!!!」
気づけば、互いの名を全力で叫んでいた。
各々の武器にありったけの炎を、冷気を込める。
「紅蓮鉤爪(レッドニードル)!!!!!」
「碧氷穿牙(ヴェローナファング)!!!!!」
思い込めた二つの刃が、幾年の時を経て、再び交錯した。
「わわわわわわわわっ!!?」
無数にばらまかれる弾丸を前に、ルインたちは攻めあぐねていた。
防御や回避に専念すればいいのならそこまで難易度の高い話ではない。だがしかし、それではいけない。今やらなければならないことは、敵の背後に鎮座している兵器の奪取なのだ。
いつまでも足踏みしている場合ではない。最悪、目の前のテロリストがトチ狂って起爆スイッチを押す可能性だってあるのだ。
「哀れな愚民よ。踊れ、惑え。その果てに屍へと姿を変えろ!」
今や自らも巨大な重火器を持ち出し乱射しているナポレヌフは、気分が高揚しているのか声高に叫んでいる。
このまま興奮状態が続くと、本当に最悪なことが起こってしまいそうで怖い。先ほどまでの言動、この男の過去、そして今の後先考えなしの乱射撃。おそらく、この男はとうにまともな精神は捨て去っていると見ていい。
余の悲願のために、死すら厭わん!とかなんとか叫んで、起爆させられたりしたらたまったもんじゃない。
一同はアコが作り出した岩壁に避難している。時折カウルが飛び出し接近を図るが、敵の元まで届かない。
「くそが、あのトリガーハッピー野郎が。」
「これだけの弾幕を張られると、近づくこともままならない。」
「私の力で弾丸を吹き飛ばすことはできますが、やはり永続的となると厳しいです。役にたてなくてすみません。」
ハルカが謝るが、これをなんとかできる方がどちらかというとおかしい気がするレベルである。
「どうすんの?このままじゃジリ貧よ!あたしだってずっと持つわけじゃないんだからね!」
岩壁を生成しては削られ、また補強したものをさらに崩されと、無限ループを続けているアコが文句を言う。
「・・・今だ。」
それまで沈黙を保っていたフォートが一言つぶやくと、そのまま弾幕の中に飛び出していった。
「ちょ!?フォート!?あんた何やってんの!!?」
一同が驚く最中、フォートはさらに驚くことをしてみせた。
進んでいる。この弾幕の中を。スピードは早くないが、飛んでくる弾丸すべてを見切り、回避しながら距離を詰めている。
「うそだろ・・・?」
「人の常識では測れない、並外れた集中力と動体視力ですね。」
「それで済ませられるレベルなんでしょうか・・・?」
その様子に唖然とする一同を後ろにフォートは、まるで風に舞う木の葉の方に緩やかな動きで距離を詰め、そして射程内に入った瞬間、一瞬でナポレヌフが持っている重火器、そして各射撃装置の動力部を打ち抜いた。
そして、ルインたちのところに戻るために振り向いたその瞬間、すべての重火器がブレイクダウンした。
回避・射撃の技術。そして今のタイミング。すべてを総合して述べられる感想は、
「すげぇ・・・」
これしかなかった。
紅と碧が刹那のうちに互いを突き抜け、そのまま静寂が訪れた。
実際は、ほんの数秒しか経っていないだろう。しかし、もしこの二人の対決を見ているものがいるとすれば、その者は、それが何分にも感じられただろう。それだけの重さが、先ほどの一撃にはあったのだ。
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈