ACT ARME 7 キレイゴト
それに対して、自分は失敗を、結果を、責任を恐れた。恐れて怯えて、あの頃から何も変わらず蹲っていた。そんな状態で、ハンスと応対しようとしていた。
そんな調子で、誰かを何かを変えることはできないと、今はっきりと思い知った。
だったらどうする?今決して失いたくないものが二つある。失くさないための方法は、ある。
なら・・・・それなら・・・・・・・。
「・・・行く。」
それは、空耳かと間違うほど小さな声だった。
「ボクも行くよ。ハンスを止めに。絶対に死なせることなく。仮に失敗しても、 いや、失敗しない。失敗なんてさせない!絶対に!!!!」
か細かった声は、どんどん大きくなり、やがて絞り出すような絶叫へと変わった。
「皆はもう一人とプロメテウスをお願い。ハンスはボクが説得する。行こう!!」
「ここだね。連中がアジトにしてる廃ビルは。」
地図を確認したルインは、敵の本拠地を見上げた。そのまま侵入しようとしたルインを、フォートが止めた。
「待て。入口にトラップが仕掛けられている。 これは、孔探知センサーだな。」
「そのようですね。このセンサーに引っかかると、相手に侵入が察知され、尚且つ何かしらのトラップが発動するでしょう。」
メガネの左レンズを緑色に光らせ、ツェリライも確認した。
「時にフォートさん。あなた、裸眼ですよね?なぜそれでトラップを見つけることができるんですか?」
「修練を積めば、この程度のトラップは見切れる。」
呆れ口調のツェリライの質問にも、なんてことないようにフォートは答える。
前々から分かっていたことだが、フォートの常識とこちらの常識は割とずれてることが多いので(朝昼晩少量の水と塩だけで日常生活を送ったりする)、気にするだけ無駄なのだ。
「さて、入口にトラップが仕掛けられている以上、真正面から入るわけにはいきませんね。」
「え?そのトラップ破壊すればいいんじゃないの?」
その至極単純バカなアコの提案に、めんどくさいが答える。
「ええ、たしかにトラップを破壊すれば引っかかることはありませんね。それと同時に、センサーが破壊されたことが相手に知られるため、僕たちの存在を自分からばらすことになりますが。
侵入するなら、二階からがいいのではないでしょうか。」
「了解した。先行する。」
と話が決まるや否や、フォートは左腕を振り上げた。
すると袖口から先端に重りのようなものがついたワイヤーが飛び出し、廃ビルの二階窓の上あたりに突き刺さった。
そのままワイヤーが縮み、するすると登っていき、あっという間に二階の窓に侵入した。
「フォートのコートの中って、どうなってんの?」
まるで四次元ポケットのようなコートにつっこんだのは、ルインだけではない。
フォートが中に入って少しした後、窓から顔を出した。
「二階は特にトラップは仕掛けられていない。入ってこい。」
フォートに促され、各自二階の窓まで上がり(上がれない者はフォートがワイヤーで引っ張り上げた)、全員中に侵入した。
「そこまでだ。」
部屋の奥の暗がりから声が聞こえる。やがて、穴のあいた天井から降り注ぐ月の光に照らされて、ハンスが姿を現した。
「お前らみたいな駄犬に、この計画の邪魔なんかさせるか。お前ら全員、ここで殺す。」
そして槍を構えた。
そんな殺る気満々なハンスにも、ルインは一切動じない。
「やれやれ、殺気立ってらっしゃることで。でもお生憎さま、僕らが依頼されてるのは例の爆弾の処理だから、お前と真正面からやりあう必要はない。 というわけで。」
ルインは懐から煙玉を取り出し、それを無造作に放り投げる。
すさまじい量の煙が放出され、完全に視界がふさがれた。
「逃がすか!」
ハンスはまったく自由の利かない視界の中、しゃむに突っ込み槍を振るう。
その槍を何かが受け止める感触がした。そのまま力任せに押し切ろうと思ったが、相手も一歩も引かずに膠着した。
その状態のまま、やがて煙が晴れ、ハンスの攻撃を受け止めたレックの姿があらわになった。
「どけ!」
「どかないよ。」
「どけぇ!!」
「いくらハンスがそう言ってもどかない。どくわけにはいかないんだ。」
レックは高ぶりそうになる感情を必死に抑え、冷静にハンスと応対する。
「お前はそうやって、自分の憎しみをだまし続けて、周りによく思われそうないい子ぶりっこをかぶり続けるつもりかよ。そこまでお前は奇麗事におぼれた偽善者になり下がりたいのか!」
ハンスは力任せにレックを弾き飛ばす。密着していた二人の距離が離れる。
「いや、そんなんじゃないよ。ボクだってあの日のことは今でも悪夢を見る。この国に対して怒りを抱いたことだって一度や二度じゃない。いっそのこと、あの時ハンスと一緒に行けばよかったのかもしれないって、何度も考えたよ。
でも、やっぱりそうじゃない。ハンスが憎むこの国には、ボクたちが知っているような理不尽な仕打ちを知らないで、幸せに暮らしている人だっているんだ。それを自分の怒りのために壊そうとしているなら、ボクは看過することはできない。
たとえ、それがボクの唯一無二の親友だったとしても。」
その瞳には、あの日には宿っていなかった光が宿っていた。レックは、その一挙一動に心を込めるかのように、丁寧に武器を構えなおした。
「ハンス。ボクと戦おう。 お互いに殺す気で。」
あの時はただ勢い付きすぎて物騒な言い方になっただけだと思っていたこの言葉。
今なら分かる。あの時ハンスがこの言葉を言った意味が。ハンスがそれだけの覚悟を持っているのであれば、自分も相応の覚悟を決めなければならないということも。
そんなレックの決意を見たハンスは、少しだけレックに対する認識を改め、集中力を高めた。
「お前は、そんな綺麗事のために命をかける気なのか。・・・ならオレも全力で、殺す気でやる。
行くぞ!!!」
直後、二つの影は激しく交錯した。
「レックさん、大丈夫でしょうか?」
ハルカがレックの身を案じる。
「まあ、精神面では大丈夫じゃないかな。完全に迷いをふっ切ってるように見えたし。あとは、その思いがハンスに届くことを祈るのみだね。」
レックを除いた一同は、煙に乗じて逃げ出し、階段までやってきた。上に上がる階段は崩落しているので、行くとするなら下だ。
下に降り、入口が見える方向とは逆に進んでいく。
奥までたどり着くと、明かりがついた。
「世は荒廃し、その残骸から出でしエゴに塗り固められた基盤の上に、人は惰眠を貪る。余はその根を破壊し世を変えんとする革命家、ナポレヌフ為り。」
何やら突然中二病臭いセリフが飛び出し、一人の男が姿を現した。
「御大層な前口上どうも。で、いきなりで悪いんだけど、お前の後ろにあるそれがプロメテウスで間違いないかな?」
ルインはナポレヌフと名乗る男の後ろにある、ガラス張りのケースの中にある、ボウリング球ほどの大きさのものを指さす。
「いかにも。主らはこれが狙いか。残念だが、これを渡すわけにはいかん。これこそが余の悲願を叶える要となる鍵なのだ。」
作品名:ACT ARME 7 キレイゴト 作家名:平内 丈