小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

風のごとく駆け抜けて

INDEX|95ページ/283ページ|

次のページ前のページ
 

2年生編/予想外の新入生


「暇だよぉ」
「確かに暇ね」
「本当に暇!」

入学式の次の日に行われる部活紹介。
昨年は説明を聞く側だったが、今年は説明する側だ。

ただし説明をすると言うのは、相手があってのこと。
その肝心の相手が誰も来ないのだ。

「昨年、県駅伝で2位になったのに。これは予想外だよぉ」
「世間はランニングブームのはずなのにね」
紗耶と葵先輩が本当につまらなそうな顔をしている。

「いや、知ってます? あのランニングブームって、あくまでマラソンとかのロードレースのことを言ってるのであって、駅伝は関係ないんです。きつい練習をして、責任のある駅伝をやろうと言う人ってあまりいませんよ」
私が苦笑いしながら言うと、葵先輩は、くすっと笑う。

「昨年は3人もいたけどね」
それを言われると、何も言えなかった。

そもそもなぜ人が来ないのだろうか。
駅伝部のある場所が悪いと言うのも、理由のひとつかもしれない。

毎年くじで決まるらしいのだが、今年の駅伝部は体育館の一番奥。
そのさらに隅っこだった。

でも、もうひとつ思い当たる理由がある。

「葵さん! メイド服は本当に辞めてくださいって! 来る部員も来なくなります。だいたいそれは、先輩のキャラじゃないですよ」
麻子の我慢もついに限界に達したようだ。

修学旅行で何があったのかは分からないが、葵先輩はすっかりメイド服を気に入っていた。今回の部活紹介も、「これはおもてなしの心を現した」と、熱く語っていた。

「いやいや、あさちゃん。意外にこう言うのは、あおちゃん先輩っぽくていいと思うんだよぉ」
紗耶はなんだか嬉しそうに喋る。

ちなみに晴美は美術部の方に出ているため、今日は私と麻子、紗耶それに葵先輩の4人だ。

「このまま誰も来なかったらどうします? 駅伝に参加出来ませんよ」
葵先輩に何を言っても無駄と悟ったのか、麻子は急に現実的な話を始める。

それは誰もが、頭の片隅にありながら、決して言葉に出来ない話題だった。
あっさりと話題に出す辺りが実に麻子らしい。

「そうなったら晴美が走るって言ってたけど……。そもそも永野先生も危機感が無いと言うか」
私がため息交じりに喋っている時だった。

「あの……すいません。駅伝部って走るだけでいいんですか?」
目の前に1人の生徒が現れる。

「お帰りなさいませ、お嬢様! 駅伝部へようこそ」
いつもより1オクターブ高い声を出しながら、パッと椅子から立ち上がり、さらには変な決めポーズまでして、葵先輩があいさつをする。

すかさず麻子が葵先輩を叩く。

「そうですねぇ、陸上部と違って短距離、投擲はやりませんよぉ。長距離を走ってばっかりです」
紗耶の説明を聞いて、その生徒は少し安心した顔をする。

見た目がすごくおとなしそうで、まるでフランス人形のようだ。
髪型も可愛らしく、肩まで伸びたストレートに左右一本ずつ細い三つ編みを作り、ワンポイントのアクセントを効かせていた。

「あの……私、中学の時は運動部でもなかったし、そもそも運動音痴で……。でも高校に入ったら体を動かしたいなって思ってまして。脚も全然速く無いんですけど大丈夫でしょうか……」
不安そうに質問して来る彼女に、紗耶は優しくにっこりと笑ってみせた。

「まったく問題ありませんよぉ。彼女はうちで一番脚が速いですが、泳げません」
私が指を指される。

「この人が走り始めた動機は、美味しい御飯をいっぱい食べるためでぇ……」
言いながら今度は葵先輩を指差し、
「この人にいたっては、なぜ走り始めたのか、未だに謎なんですよぉ」
と笑いながら最後に麻子を指さす。

「「「ちょっと紗耶!!」」」
私達全員の声が見事にそろった。

「先輩方、面白いですね。あの……私入部します。よろしくお願いします」
彼女はそう言って私達の前で一礼する。
その一言を聞き、葵先輩がお礼を言って入部届を書いてもらう。

「那須川朋恵さんですね。分かりました。それでは部室などを簡単に説明しますね」
葵先輩の説明を聞くと、那須川朋恵は再度お礼を言って帰って行った。

「とりあえず部員確保か」
「でもぉ……。あの子大丈夫かなぁ。これから鍛えるにしても、どこまで速くなるだろう」
「それは、ゆっくり考えましょう。まずは5人揃うことが大事よ」

葵先輩の一言に紗耶も、「そうですねぇ」と納得していた。