風のごとく駆け抜けて
決戦!高校駅伝!!
葵先輩達が仲直りしてからの10日間はあっと言う間だった。
幸いにも誰も故障すること無く、風邪を引くことも無く、万全の状態で駅伝を迎えることができそうだった。
若干ではあるが木々の葉も色が変わり始めた11月の第一土曜日。
時間は午前9時。駅伝に向けて出発するため、私達桂水高校女子駅伝部のメンバーは校門横にある職員駐車場に集まっていたのだが……。
「いや、肝心の永野先生が来てないって、どう言うことよ」
今私達が置かれている状況を麻子が的確に説明する。
そう、部員も由香里さんも来ているのに、肝心の永野先生がいないのだ。
しかも、由香里さんが携帯に電話しても出ないらしい。
「寝坊ってことかな」
「もういっそ、置いて行っちゃうってのはどうかなぁ?」
「それが困ったことに、オーダーリストなどの書類は綾子先生が持っているのよね」
みんなであれこれ相談していると、ものすごいスピードで一台の車が駐車場に入って来た。
永野先生の愛車であるブルーのラポンだ。
「お待たせ。ギリギリセーフ?」
「思いっきりアウトよ、綾子。で、なんで遅れたの?」
「届いたのが昨日の夜だったのよ。無理を言って今日開店前に取りに言って来たの」
由香里さんに説明しながら、永野先生は後部座席からダンボールを降ろす。
「各自一着取ってくれ。私の分もあるから余りが出るはず」
永野先生が取り出した物を見て私達は目を輝かす。
「うそ。これはすごいかな」
「うわぁ、すごく駅伝部ぽいんだよぉ」
「あたし着るの初めて」
そこにあったのは、ロングコートだった。
しかも、晴美の分まできちんと用意されていた。
ユニホームに合わせて、まるで青空のような青色をしたコートの背中に、太陽の光を浴びた雲のような明るい白色を使い、毛筆フォントで「桂水」と力強く書かれていた。
全員でそのお揃いのロングコートを着ると、不思議と身が引き締まる上に、チームとしての一体感がより強いものになった気がした。
「うん。予想以上に似合ってるな。よし、みんな忘れ物は無いな。それじゃぁ、桂水高校女子駅伝部にとって本当の意味での初陣に出かけるとするか」
その一言に全員で返事をする。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻