風のごとく駆け抜けて
私は、ものすごい勢いで階段を登って行く。
元々中学生の時から、ロードレースなどでアップダウンを走るのは得意だった。
そう言った理由もあり、トラックよりもロードの方が好きだったりする。
その中でも駅伝が一番好きなのだが。
階段をものすごい勢いで上がって、一番に3階の渡り廊下へとたどり着く。
ちなみに私が来たのは南側の「×」の方。
理由は簡単。ステージで私が立っていたのが、南側だったからだ。
私が辿り着いて10秒くらいすると、次々と他の生徒がやって来る。
どうも、私は圧倒的に早かったようだ。
あまり認めたくないが、スクール水着は邪魔なものがまるで無いので、脚がものすごく動かしやすい。
以前、麻子がハーフパンツでタイムトライをやろうとしていたのを、永野先生がランパンに着替えろと注意してたことがある。
麻子も最初「対して変わらないと思うけど」と言っていたが、走り終わって違いを実感したようだ。
「はい、ここで50秒です」
下から声が聞こえて来る。
それと同時に渡り廊下を男子生徒が封鎖する。
何人かは制限時間をオーバーしたようだ。
こっちの×側にざっと20人。
向こうの○側には25人くらいの生徒が見える。
「それでは正解です。正解は……×です。お孫さんの名前は、しょうた君ではなく、しょう君です」
発表と同時に私の周りから喜びの声が湧き上がる……。
のかと思っていたら、みんなまだ呼吸が戻ってないらしく、ぜいぜい言っていた。
「それでは第二問。ちなみに今度はこのステージを半分に別けて○×エリアにします。そう! 正解だった×側のみなさん。今度は3階からここまで走って降りていただきます。今度は下りですので制限時間は40秒です」
その説明に私の周りから、ため息と絶望の声が上がる。
「体育教師、上原先生の娘が好きな食べ物はプリンである。〇か×か」
気のせいか。
もうまったく知能とはかけ離れた問題になっている気がするのだが。
そう思いながらも私はそっと渡り廊下の階段側、男子生徒が封鎖のために立っているすぐ横に移動する。
移動が終わると同時に合図の笛がなり、男子生徒がさっと道を開ける。
おかげでスタートの合図と同時に飛び出すことに成功する。
これも悲しきランナーの習性と言わざるを得ない。
さっきの登りでかなり脚を使ったのだろう。
太ももの前側が重たくなっていた。
でも下りなら、どうにかそれをごまかしつつ走れる。
タッタッタッとリズムよくどんどんと階段を下って行く。
もう今日の練習はこれで終了でも良いくらいの全力疾走だ。
「おっと、これは速い。水着の子がダントツの一番で帰ってきました。そして、選ぶのは○のようです」
ステージに帰って来ると解説が入り、ちょっと恥ずかしい思いをしてしまった。
ちなみに私が〇を選んだのは向かって奥側にあったからだ。
一番で帰って来て、手前の×側にいると後から来る人達の邪魔になる気がしたのだ。
「さぁ、続々とみんな帰って来ます。残り3秒、2、1。タイムアップ」
やはり今回も何人か間に合わなかったようだ。
ちなみに私のいる○側に7人。
×側に10人程人がいる。
私以外の生徒はみな息も絶え絶えになっており、私だけが平然と立っていた。
「それでは正解です。正解は……○です」
当たった生徒も外れた生徒も呼吸を整える方が先のようで、歓喜の声も悲哀の声も上がらなかった。
見るに見かねた司会者が、唯一元気そうにしている私にマイクを向けて来る。
「どうですか、ここまで勝ち残った感想は?」
「あ、はい。運が良かったです」
「そう言えばあなた、ダントツの一番で帰って来ましたね。普段から部活で鍛えているのでしょうか。もし良ければ、お名前と部活を」
「えっと……駅伝部所属、1年6組澤野聖香です」
私が言い終わるのと同時だった。中庭の隅から「聖香!!」と声が上がる。
「お、駅伝部の皆さんが応援してくれています。ところで、澤野さん。なぜ駅伝部なのに水着なんでしょうか。当初、ミス桂水も水着審査を入れる予定でしたが、今朝急遽中止になったのに」
その発言に私は思わず、模擬店の方を見る。
テーブル前に出ていた葵先輩がものすごい急いで逃げた。
葵先輩め、知っていたのに黙っていたに違いない。
後で追及しなければ。
そう思いつつ、皮肉たっぷりに「部活の先輩に騙されました」と言っておいた。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻