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風のごとく駆け抜けて

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電気も点けずにベッドで横になっていると携帯が鳴る。
晴美からの電話だった。

一瞬出るのを躊躇してしまう。

駅伝部の前から逃げ出した後ろめたさと、駅伝部を見つけてしまった時にあふれ始めた自分の感情で心の整理がつかず、私は晴美を待つことも無く、体育館を抜け出し1人で帰宅してしまったのだ。

「もしもし……」
「おっ。電話に出た。先に帰ってたから、なにかあったのかと思ったかな」
電話越しに晴美の明るい声が聞こえる。
正直、その明るさが今は少しだけきつかった。

「ううん。大丈夫。元気だよ」
その言い方があからさまに元気では無いことは自分でも分かっていた。
もちろん、晴美も一瞬でそれを見抜いてしまったようだ。

「それはウソかな」
その一言には私を心配する晴美の優しさが十分に詰まっていたし、私も電話越しにそれをしっかりと感じることが出来た。

だからこそ私は今日あった出来事をすべて話す。

もちろん、自分の感情も出来る限り説明しながら。

「そっか……。聖香、やっぱり本当は走りたいんだね」
晴美の言葉は優しく語りかけるようだった。

走れないならいっそのことと、陸上部の無い高校を選んだ。
そうすればあきらめられると思っていた。

でも、あきらめきれない自分がいたのも事実だし、どんな運命のいたずらか陸上部の代わりに駅伝部なるものがあったのだ。
その事実が、否が応でも私の心をかき乱す。

部活紹介の2日後。
晴美は美術部に顔を出すと言うので、私は1人で帰ることにした。

下駄箱から自転車置き場へと行き、自転車を押しながら校門へ向かう途中で4人組の走っている生徒を見つけた。

あの時いた4人だ。
4人しかいないと言うことは、私が逃げ出した後は誰も入部しなかったのだろうか。

と言うことは、まだ正式な部では無いと言うことか。
まぁ、私には関係の無いことだ。

そう思いつつも、4人組を目で追っている自分がいた。

走っていた彼女達が向かったのは、自転車置き場の裏にあるグランドだった。

そのグランドを見ると、なぜ桂水高校に陸上部がないのか首を傾げたくなる。
なぜなら、下が土ながらも1周400m、8レーンまである立派なトラックがそこにはあるからだ。

学校紹介時の説明によると、市営の陸上競技場が出来る前は、ここで陸上の試合もやっていたそうだ。

「いいなぁ。こんな所で毎日走れたら楽しいだろうな」
思わず頭の中に浮かんだ一言に自分でも驚く。
私は必死でその感情を押し殺す。
その時間は果てしなく長くも感じる。

ふと我に返り時計を見る。
時間はそんなに経ってはいなかった。

いけない。そろそろ帰らないと。
そう思いながら、歩みを進めようとした時、4人組の1人がこっちを見た。

湯川麻子だ。

不意に目が合い私は驚く。
もしかして私がずっと見ていたことに気付いていたのだろうか。
湯川麻子に何か言われるかと思った。

でも、そのまま彼女はみんなと一緒にグランドの奥へ消えて行く。私は安堵のため息をつく。


しかし次の日の昼休み、私は湯川麻子に呼び出された。