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風のごとく駆け抜けて

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「それにしても、はるちゃんの会全員が集まるのって何年振りかなぁ?」
いつのまにか紗耶が私と麻子の側にやって来て訊ねる。

私達が高校を卒業した次の年。
つまりは晴美が亡くなって1年たった時に、麻子から電話が掛かって来た。

晴美の命日がある週の土曜に、みんなで地元に帰ってお墓参りをしようと言う電話だった。

結局それは毎年続き、いつの間にか晴美の会と言う名前となり、こうして毎年みんなが集まることになっている。

メンバーは葵先輩、久美子先輩、私、麻子、紗耶、紘子、朋恵、アリス、梓、それに永野先生、由香里さんの計11人だ。

「うーん……。三年ぶりじゃない? みんな忙しいしね。私も二年前はこれなかったし。でも別の日に、ちゃんとお参りしたけど」
私が紗耶の質問に答えると、紗耶も「ああ」と納得する。

「とくに葵さんは忙しいでしょうからね」
麻子は喋りつつも、遠くで久美子先輩と話しをしている葵先輩を眺ていた。

葵先輩は防衛大学を卒業後、陸上自衛隊の幹部として日本全国あちこちで忙しく働いている。一度は海外派遣にも参加したことがあるらしい。

久美子先輩は大阪で保育士の免許を取ったのち、両親の住む広島で保育士をしている。

「なにより、社会人になると休みがね。特にあたしなんて土日が稼ぎ時だし。その点紗耶は良いわよね」
「そんなことないよぉ、あさちゃん。自営業も楽じゃないんだよぉ」
麻子の一言に対して、紗耶は気難し顔をする。

そんな2人を置いて、私は景色が良く見える場所へと1人歩き出す。
歩きながら、麻子と紗耶の卒業後を思い出していた。

麻子は修学旅行の時に言っていたとおり、体育大学に進学。
大学では陸上部に所属し、大いに活躍する。

卒業後は、桂水市のスポーツジムでインストラクターとして働きながら、本人もクラブチームのバスケと市民ランナーと言う二足のわらじを履き、さらには良き主婦と二児の母と言う大役までこなし、それなのにマラソンで2時間45分で走ると言う、まさにスパーレディーへと変貌を遂げていた。

麻子とは対照的に紗耶は進学で随分と迷ったようだ。
センター試験の申込みも済ませていたのだが、結局センターは受けず、急遽進路を変更して、鍼灸師の専門学校へと進学した。

「自分が故障して、同じように苦しんでいる人のためになりたいなぁって、思ったのがきっかけなんだよぉ」
高校3年生の1月に、私と麻子に説明してくれた紗耶の笑顔が、とっても印象的だった。

紗耶は専門学校を卒業後、八年ほど東京で鍼灸師として働いたのち、桂水市に戻って来て独立。

今では桂水高校の近くに藤木鍼灸院と言う立派なお店を出している。

たまに私も顔を出すが、なぜか5回に1回くらいの割合で、元城華大付属の貴島由香に出会う。彼女は別の市で働いているのに、わざわざ遠いところから車でやって来ては紗耶のお世話になっているようだ。

「最近運動不足でまずい。高校を卒業してからもう何年も走って無いもの。もう一度走り出そうかな」
会うたびに貴島由香は言って来るが、一向に走り出す気配を見せないのは、どう言ったことなのだろうか。

でも紗耶は以前こっそりと私に教えてくれた。

「せいちゃんの手前、ああは言ってるけど、実はこっそりジョグを始めたんみたいなんだよぉ。脚を触ったら一発でわかるんだよぉ」
一応、貴島由香が言い出すまでは黙っていようと思った。

桂水高校で言えば、アリスと梓も高校で陸上を辞めた組だ。

梓は現役で医学部に合格し、今や立派な医者として親と一緒に働いている。

「大学在学中と研修期間中、勉強漬けだったせいでしょうか。最近、体力の低下が酷くて。ちょっと体力を戻さないとまずいです」
さきほど私と梓の2人で、お墓参り用の水を汲みに行った時に、苦笑いしながら梓は言っていた。

アリスは高校卒業後、父親の親戚を頼りイタリアへと渡る。

「アリス的にもよく分からない状況ですよ。見た目は金髪碧眼でしょ。なのに向こうで言葉がきちんと話せるかが不安って……。心は完全に日本人ですよ。今、両親にイタリア語を猛特訓してもらってます」
一番最初にみんなでここに集まった時。つまりはアリスが3年生の夏には、イタリアに行く決意をしていたらしく、私に笑いながら話してくれた。

アリスはその後、イタリアの大学に進学し、大学院まで出て帰国。
帰国後はイタリアと日本を年に何度も往復しながら通訳関係の仕事をこなしているらしい。

「アリス的にはルーツを知って自分の道が大きく開けた気がします」
昨年集まった時に、アリスがそんなことを言っていたのを思い出す。

ちなみに、高校卒業後も走り続けたのが紘子と朋恵だ。

紘子は高校を卒業すると実業団へと進む。
駅伝、トラックと全国でもかなり上位の方で活躍していた。

3年前に競技生活を終え、今は実家の近くにある一般企業に勤務。
市民ランナーとして復活しようと考え、先週からジョグを始めたと、霊園の駐車場で会った時に話してくれた。

「だいたい、桂が市民ランナーとして走ってるのに、自分が何もしていないって悔しいですし」
どうやら、紘子と雨宮桂のライバル心は、未だに火が付いたままのようだ。