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風のごとく駆け抜けて

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エピローグ


「随分長々とそうしてるけど、あなた何を報告してるの?」
麻子の声に私は目を開けて振り返る。
それと同時に、胸の前で合わせていた両手も降ろす。

「いや。報告と言うか、ちょっと高校の時を色々と思い出してたの」
麻子につぶやいて、私は晴美のお墓の前から立ち退く。

「なるほど。そりゃ長くなるわけだ。今年で晴美が亡くなって15年。私達が都大路を走ったのも同じく15年前か……。懐かしいわね。まるでほんの2、3年前のようだわ」
麻子はその場で私を見てクスッと笑い、私と入れ替わるようにして晴美のお墓に手を合わせ祈り始めた。

確かに麻子の言う通り、私が県駅伝で優勝のゴールテープを切ったあの日から、もう15年も経っているのが信じられない気分だ。


あの日、ゴールした私に紘子と永野先生が真っ先に駆け寄って来た。

「聖香さん! やりましたし! 都大路に行けますよ!」
紘子はいつもよりも1オクターブ高い声で、喜びの声を上げていた。

それは、もはや悲鳴に近い感じだった。

「澤野! よくやった。お疲れ」
「永野先生! やりました!」
永野先生の顔を見た瞬間、あまりの嬉しさに、私は泣きながら胸に飛び込んだ。
永野先生も私をぎゅっと抱きしめてくれた。

その後、みんなが続々と帰って来た。

病院で点滴を受けていた梓も、テレビ中継はずっと見ていたらしく、由香里さんに支えられながも眼には涙を溜めていた。

麻子にいたっては、私を見つけるなり、ものすごい勢いで抱き着いて来て、危うく吹っ飛ばされるところだった。

そして朋恵が帰って来ると、誰もが朋恵を称え、最後には朋恵を胴上げする始末。それくらいあの時の朋恵はすごかったのだ。

閉会式で優勝旗を貰う時に全員が泣いてしまい、永野先生から「お前らはいったいどれだけ泣けば気が済むんだ」とあきれられたが、そう言う永野先生も眼が真っ赤になっており、由香里さんに笑われていた。

京都入りをした私達がまず最初に驚いたのは、都大路の宣伝ポスターだ。

晴美が書いたあの絵がポスターとして使用され、街のあちこちに貼ってあった。

「わたし達、はるちゃんとの誓いをちゃんと果たせたんだよぉ。はるちゃんが待っている京都にみんなで来れたんだよぉ」
京都駅の改札口前で叫んだ紗耶の一言が、随分と印象的だった。

そして、二度目に驚いたこと。

なんと永野先生は、都大路の1区に紘子では無く、麻子を起用したのだ。
麻子自身、永野先生に言われたのがレースの三日前。

なんでもあの年は、雨宮桂と紘子の日本人2人と、留学生2人が全国的にみても飛び抜けていたらしい。

しかし、雨宮桂は県駅伝で敗退。
留学生はルール上1区を走れない。

そうなると1区は前半からスローペースになるだろうと、永野先生は読んだのだ。

「湯川がしっかりと先頭集団に喰らい付いてタスキを渡し、若宮で一気に抜き去った方がレースの主導権を握れるはずだ」
ミーティングの時、永野先生はそう私達に説明してくれた。

そしてこの予想は見事に的中する。

その年の都大路1区は、超が付くほどのスロー展開。
どの学校も牽制し合い、中間地点の3キロを通過しても47都道府県中42チームが先頭集団と言うありさま。

ラスト1、5キロから徐々に縦長になり始めるが、ラスト1キロを切っても、まだ17チームが先頭集団に残っていた。

麻子はこの時8番手を走っていた。

ラスト500mから壮絶なスピード争いとなり、一気に集団が崩れる。
麻子はこのラスト500mを本当に頑張った。
必死で前を追い、先頭と5秒差の6位で2区紘子へとタスキリレーを行った。

2区の紘子はまさに別格だった。
あっと言う間にトップに立つと、どんどんと後続を離して行く。

結局3区にタスキを渡した時には、2位の鍾愛女子に19秒もの大差を付けていた。もちろん紘子は2区で区間賞だった。

どの学校も永野先生と同じことを考えてのことか、インターハイ女子3000mで1、2位だった留学生2人が2区にいたにもかかわらずだ。

初出場の桂水高校が先頭でタスキリレーをするものだから、テレビの解説者はかなり興奮気味に実況をしていた。

おかげで後から放送を見ると、なんだかこちらが恥ずかしくなって来た。

3区は県駅伝と同じくアリスが走る。
アリスはまともに走り出して1年も経っていないのに、淡々と落ちついてレースを進める。

本当にこの走りは一種の才能と言っても良いのだろう。
フォームも崩れること無く、きっちりと3キロを走り抜き、2位に2秒程詰められただけで、しっかりと1位を守り抜いて4区へとタスキリレーをした。

不思議とテレビで見ると、「アリスが走るたびに金髪がなびいて綺麗」と、言っていた晴美の言葉が分かる気がした。

そして4区。

4区を走ったのは紗耶ではなかった。
結局、紗耶の腰は回復が間に合わなかったのだ。

「仕方ないよぉ。人生、山もあれば谷もあるんだよぉ」
京都へ出発する前に、紗耶は笑顔でそう言いながら、「都大路のメンバーから外してください」と、自ら永野先生に頼みに行ったことを打ち明けてくれた。

その紗耶と朋恵のユニホームを着て走ったのは梓だった。

「県駅伝の時は、朋恵先輩がうちと紗耶先輩の思いと一緒に走ってくれましたから。今度はうちが2人の思いを運ぶ番です」
梓は前日のミーティングでそう言って笑っていた。

4区の梓で2位に4秒詰められたものの、私は13秒もの貯金を貰い、5区をスタートすることが出来た。

5区を走れる。それだけで私は本当に嬉しかった。

永野先生が走ったコースを自分の脚で走っている。
そう考えるだけで、走りながらも顔がにやけてしまいそうだった。

結果的にはそのおかげで無駄な力が入らずにすんだのだろうか。
私は5区で区間賞を獲得し、ゴールテープまで切ってしまった。

つまり、桂水高校女子駅伝部は初出場で初優勝と言う、とんでも無い快挙をやってしまったのだ。