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風のごとく駆け抜けて

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しばらくして朋恵と紗耶も帰って来る。
朋恵と何を話したのかは分からないが、紗耶は随分と落ち着いていた。

「さっき、ともちゃんの携帯からあずちゃんにメールを送っておいたんだよぉ。さっきはごめんって。てか、本当にさっきはごめん」
紗耶は私と麻子にそっと報告をする。

「別に紗耶が謝ることでも無いし、梓が謝ることでも無いわよ。そんなことであたし達駅伝部の結束は崩れたりしないから」
麻子に言われ、紗耶も静かに頷いた。

朝食の時間になり、大広間に行くと永野先生がすでに座って待っていた。

「今さっき由香里から電話が来た。大和妹は注射を打ってもらって、今点滴を打ってるらしい。点滴を2本打つから、しばらく病院だそうだ。由香里は診断書を持って来て、お前らを競技場まで送ったら、また病院に戻るって言ってた。ゴール前には大和妹を競技場に連れて行くからってさ。それも時間ぎりぎりまで由香里の車に暖房を入れて、その中で待機させておくって言われた。あいつも随分優しいよな」

「いえ、永野先生も十分に優しと思ういますよ」
私はわりと真剣に言ったつもりだったが、当の永野先生には「はいはい。それより早く朝食にしよう」とあっさりと流されてしまった。

御飯を食べ終わり、部屋に戻る時に紗耶が私の横に並んで来る。

「今、永野先生に言われたんだけど、わたしがせいちゃんの付き添いになったんだよぉ」
「え? 朋恵の付添いになるとばっかり思ってたんだけど」
「うん。なんか1人の方が集中出来るからって、ともちゃんが断ったんだって。てか、わたしからユニホームを借りたから恥ずかしいんだって」

あぁ、さっきは朋恵がたくましく見えたが、こう言うところはやっぱり朋恵だなと思った。

「だったら、ともちゃんを迎えてあげられる5区に行こうと思ったんだよぉ。それに二年半一緒に頑張った仲間を送り出してあげたいからぁ」
紗耶は少し恥ずかしそうに笑ていた。

その後支度を終えると、由香里さんも帰って来る。
由香里さんの話を聞く限り、梓も随分と落ち着いたらしい。

永野先生と由香里さんの車で競技場に向かう。

「そう言えば、勝敗に関係なく、この競技場を高校生の間に見るのは今日が最後なのよね」
競技場に着いて荷物を降ろしたところで、麻子が競技場を見上げながら言う。

私は言われて初めてその事実に気付いた。
そう考えると、なんだか寂しいもんだ。

それに、私にとってはこれが最後の高校駅伝だ。
もちろん、そんなことは前から十分すぎる程に分かっていた。

だが、麻子の発言を聞くと、今まで「最後だから頑張ろう」としか思っていなかった気持ちに、「これが最後と言うのは寂しいな」と言う思いも出始めていた。

「最後だからこそ、笑顔で終わるわよ」
麻子が私に近付いてそっと言う。

「もちろんそのつもりよ」
私が返すと、麻子は満足げな表情で頷いた。

しばらくすると、バスの乗車準備が出来たことを係員が拡声器で知らせて来る。

「さぁ、みんな行くわよ」
麻子の声に自然とみんなが集まる。

よく考えるとこれをやるのは3回目だが、麻子が掛け声を掛けるのは初めてだ。

あ、と言うことは来年は朋恵がこれをやるのか。
正直少し想像がつかない。

そんなことを思いながらも、みんなが重ねている手の上に自分の手を重ねる。

「今年こそ絶対に都大路に行くわよ。そのためにも全員が悔いの無い走りを。最後まで絶対にあきらめない走りを。頑張って行こう。落ち着いて行こう。リラックスして行こう。桂水高校女子駅伝部! ファイト!」
「「「おー!」」」

これをやると毎年やる気が一気に高まるから不思議だ。