風のごとく駆け抜けて
由香里さんの車に乗っていた他のメンバーと合流し、体育館へと入る。
と、目の前に城華大付属のメンバーが集まっているのを見つける。
えいりんが真っ先に私に気付き、こちらに向かって来る。
「当然、アンカーだよね」
「もちろん。えいりんのお望み通りにね」
「だったら問題無し。良い勝負をしましょう」
藍子からそれなりに話を聞いていたが、本当にえいりんは私に対してよそよそしい態度を見せる。
紘子と雨宮桂もお互いに一言だけ、
「今度こそ負けないし」
「こっちも負ける気はないよ」
と短い言葉を交わしていた。
貴島由香だけは、紗耶の顔を見つけると真っ先に駆け寄って来た。
きっと紗耶のことが心配だったのだろう。
「なんだか威圧感がすごいですね」
見ると梓は少しだけ震えていた。
「こら、戦う前から負けを認めないの」
私は梓の頭を軽く叩く。
「違いますよ。ただ凄いなって思っただけです。ここまで来たら、やるべきことは決まってるんですから」
「そう思ってるなら良いけど」
私は梓にそう言いながらも、藍子を眼で探していた。
でも、どれだけ探しても藍子の姿は見つからなかった。
えいりんに聞こうとした時、場内放送で整列をするように指示が出る。
桂水高校のメンバーも、城華大付属のメンバーも、それを聞いて移動し始めたので聞きそびれてしまった。
一番後ろにいた私は、全員が「桂水」と背中に書かれたお揃いの青いロングコートを着ている姿を目にする。
その姿は不思議と私に力を与えてくれるような気がした。
今年もうんざりするほど開会式が長かった。
唯一、気を紛らわせてくれたのは選手宣誓だ。
毎年、昨年度優勝校のキャプテンがすることになっているが、女子の代表は藍子だった。つまり、今年の城華大付属のキャプテンは藍子だと言うことだ。
まぁ、特にわざわざ尋ねる話でもないし、えいりんも藍子自身も何も言ってこないので今の今まで知らなかった。
と言うことは、藍子はキャプテンのくせに部活をすっぽかして、桂水高校まで勝負をしに来たということか。まったく、大した根性だ。
「それにしても、3年間とも開会式がとんでもない長さだったわね」
麻子が体育館を出るなり、大きなため息をつく。
「選手宣誓をやる人にとっては最悪でしょうね。ずっと緊張したままだろうし」
「確かに聖香の言うとおりかも。こりゃ朋恵は大変そうね」
麻子の一言に、全員が足を止める。
みんなの視線が麻子に集中していた。
「あさちゃんも立派にキャプテンを務めたと思ったら……。最後の最後でやらかしたんだよぉ」
紗耶が頭に両手を乗せ、天を仰ぐようなポーズをとる。
あきらかにパフォーマンスだろう。
突然名前を言われた朋恵は、首を傾げ不思議そうな顔をしていた。
なぜ、自分の名前が出て来たのか理解してない様子だ。
ただ、時間が経つと意味が分かったのだろう。
「え!!」と叫び声をあげる。
「あの……。なんで私なんですか。ひろこちゃんがいるじゃないですか。それにアリスちゃんだって。無理です! 私にキャプテンは無理です!」
朋恵が紘子とアリスを指差し、必死で私達3年生に訴える。
「残念だけと朋恵。あたし達3人、満場一致で朋恵だったのよ」
「それにわたしは、ともちゃんなら立派にキャプテンをやり遂げらると思うんだよぉ」
「まぁ、朋恵は努力してるしね」
麻子、紗耶、私にそれぞれ意見を言われ、朋恵は何も言わなくなってしまった。
味方が欲しかったのか、紘子達をちらっと見るが、
「朋恵が一番最適と思うし」
「アリスもなすみーが良いと思う」
「うちも朋恵先輩ならなんの文句もありません」
と、みんなにはっきりと言われてしまう。
さすがにこの状況には朋恵も「分かりました」と言うしかなかった。
「思わずばらしてしまってなんだけど、交代は駅伝が終わってからね。この駅伝はまだあたし達3年生の仕事だから」
麻子が賛同を求めるように私と紗耶を見る。
私達も「もちろん」と頷く。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻