風のごとく駆け抜けて
決戦!最後の高校駅伝!!
藍子との対戦から一週間後。
夜に勉強をしていると携帯が鳴る。
倉安さんからだった。
「はい、もしもし」
「せいちゃん! おはよう」
なんと電話の相手は椎菜ちゃんだった。
「こら、椎菜。こんばんはでしょ。言ってごらん。こんばんは」
「嫌!」
後ろから倉安さんの声も聞こえて来る。
「椎菜、電話貸して」
「嫌!」
「こら、椎菜、電話貸しなさい」
「嫌だ!」
と、携帯の向こうでドタドタと音が入り、「椎菜どこに行くの!」と声が響く。
随分と電話の向こうはドタバタしているようだ。
しばらくして、ようやく倉安さんが電話越しに出た。
「ごめんなさいね。最近、電話が大好きで。聖香に掛けるって言ったら、このありさまよ」
「いえいえ。大丈夫ですよ。てか椎菜ちゃん相変わらず元気ですね」
と、そのまましばらく倉安さんと雑談になる。
「っていけない。今日電話したのは用事があったのよ。あのね聖香。駅伝もうすぐでしょ? 応援、どこに行けばいいのかな」
質問を受け、私は丁寧に説明をする。
倉安さんもすぐに分かってくれた。
「なるほどね。じゃぁ、あの赤い大きな橋の陸上競技場側に立ってるわね。てか、あれから調子はどう? 本番間に合いそう?」
「本当にギリギリですね。どうにか当日にはしっかり走れるかなと」
「そっか。安心した」
私が説明すると倉安さんは一言だけ返して来た。
その後、また少しだけ雑談をして電話を切る。
ふと、携帯の画面に出た日付に眼が止まる。
駅伝まで、本当にあと少しとなっていた。
今回が私達3年生にとって都大路に行ける最後のチャンスだ。
悔いだけは残したくない。
自分の持っている力をすべて出し切れるように頑張らなくては。
と、思いつつ。また参考書に眼をやる。
ここが受験生の辛いところだ。
ふと、藍子が前にいった言葉を思い出す。
えいりんも必死で勉強をしていると言っていた。
私と同じ大学に行くために。
さすがにこれで私だけが落ちたら、笑うに笑えない。
そう思い、日々勉強を頑張っているのだ。
ただ、晴美が亡くなって以来、えいりんとは一度もメールをしていない。
その理由も藍子からこっそりと教えて貰った。
理屈は分かるがちょっと寂しい気がする。
駅伝が終わったら、一番にメールをして見ようと思い、よく考えたら同じアンカーを走るのだから終わって話せば良いと言うことに気付く。
「でも、勝敗が付いた後で、のんきに2人で話せるかな? やっぱり、その日の夜にメールが一番かも」
さらに熟考をした結果、私の中ではそう言う結論に達した。
それから数日後。
ついにその日がやって来た。
私にとって最後の高校駅伝が。
今日は会場へと向かい、開会式となっている。
荷物は昨日のうちにまとめてある。
朝御飯を食べて身支度をすると、私は早めに家を出る。
集合前に行きたい場所があったのだ。
そのために1時間早く目覚ましをセットしておいたのだ。
自転車をこぎ、小高い丘を登って行く。
無理に脚を使って明日に響いてもいけないので、途中からは自転車を押して行く。
目的の場所に着くと、前回同様、眺めは抜群によかった。
そう。出発前に私は、晴美に会いに来たのだ。
「晴美……。いよいよだよ。なんだか不思議なんだよね。この駅伝のために頑張って来たはずなのにさ、いざそれを迎えたら、来なければ良いのにって思ってしまう。って、今から弱気になっても仕方ないよね。あれから私、頑張って練習したんだよ。何度も地獄を見てさ、走りながら泣きそうになったことも何度もあったし。でも、どうにか走力も戻って来たよ。しかっり走って来るから。だから見ててね。次に来る時は、良い報告も一緒に持って来るね」
お墓の前で手を合わせ、報告を終えると、また自転車に乗り自転車へ向かう。
私が学校に着くと、珍しく永野先生と由香里さんが来ていた。
普段の試合だと、割と時間ぎりぎりでやって来るイメージがあったので、正直驚いた。
それを言うと、
「まぁ、綾子が朝寝坊をしたか、してないかの違いだけね」
と由香里さんは笑ていた。
さらに珍しいと思ったのは、梓が集合時間ぎりぎりでやって来たことだ。
普段の練習でもレースの時でも、梓はかなり余裕を持って行動するタイプだっただけに、なんとも意外な気がした。
全員が揃うと、永野先生と由香里さんの車に別れて開会式の会場へと向かう。
私は紘子、朋恵と一緒に永野先生の車に乗り込む。
「今年はかなり僅差になりそうな雰囲気だな」
会場へと向かう途中で、永野先生が何気なくつぶやく。
「やっぱりそう思いますか?」
「まあな。城華大付属はあくまで私の予想に基づくオーダーだが、どの区間も5秒差以内の争いになりそうだな。全区間でうちが5秒勝てれば25秒差で勝てるし、逆もあり得る。それでも差は30秒以内だ。実際はもっと僅差になると思うぞ」
私が聞くと、永野先生は冷静に答えてくれた。
「安心してください。自分が1区で桂に勝って流れを作ってみせますし」
後ろの席に座っていた紘子が、元気よく宣言する。
そう言えば、前の高校選手権の時にも、紘子は同じようなことを言っていた気がする。何か秘策があるのだろうか。
「じゃぁ、私はその紘子を必死で応援しようかな。ちょうど5区のスタート地点が、1区のラスト1キロだしね」
「分かりました。じゃぁ自分も、聖香さんがゴールテープを切る所を間近で見てますね。1区はゴールに間に合いますし」
紘子が笑顔で私に返して来る。
さらりと、優勝前提の約束をされた気がしたが、最初からそれが目標なので特に問題はない。
その後も色々な話をしていると、あっと言う間に開会式が行われる体育館へと到着した。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻