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風のごとく駆け抜けて

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私達が新キャプテンを決めた3日後、今年の駅伝のメンバー発表が行われる。

「今年はセオリー重視で、きっちりとまとめた」
発表前に永野先生は私達にそう言い聞かせる。

「1区若宮。2区湯川。3区ブレロ。4区大和妹。5区澤野。補員に那須川と藤木」
正式に発表されると気が引きしまる思いがする。

私だけに日々課せられる、地獄の……。
いや、永野先生による愛のあるメニューのおかげで、体力も随分と回復して来た。

ただ、実戦を戦っていない以上、あくまで予想でしかないが。

ふと紗耶を見ると、とても悲しそうな顔をしていた。
よく考えたら、私が正式に5区を任されたように、紗耶は正式にメンバーから外れることが決まったのだ。

色々と複雑な思いがあるのだろう。

その顔を見ると、都大路出場を勝ち取って紗耶にチャンスをあげたいと強く思えた。

メンバー発表の2日後、駅伝まで約2週間と迫った日にそれは起きた。

「あの、聖香先輩。あそこに見慣れない制服の女子生徒がいますよ」
部活中にジョグをしていると、梓が突然不思議なことを言いだす。

言われて梓が指差す方を見ると、確かに見たこともない制服だった。
桂水高校と同じでブレザーの制服ではあるが、桂水が黒を基調としているのに対して、その制服はクリーム色をしている。

見たことがない制服だったが、それを着ている女子生徒は思いっきり見覚えがあった。

「ちょっと、藍子! なんであんたがここにいるのよ!」
あまりに驚いてしまし、そこら一体に聞こえるような大声を出してしまう。

はっと我に返ると、周りにいた人が一斉に私を見ていた。

部員も次々と私の所に集まって来る。

「つべこべ言わずに私と勝負しなさい! 澤野聖香」
いったい藍子はどうしたというのだろうか。

制服のまま桂水に現れ、いきなり勝負しろと言い出す。
だいたい、ここまでどうやって来たのか。

城華大付属と桂水は、電車とタクシーを使っても、50分はかかるくらい離れているはずだ。

ふと時計を見る。
時間的に考えて、藍子は学校が終わってすぐ電車に乗ったのだろう。

「いや、そもそも別に駅伝で勝負すれば……」
「うるさいわね! 察しなさいよ! 市島瑛理に負けたのよ。悔しいけど、勝てなかった。今年の5区は市島瑛理よ。私は2区」

それを聞いた瞬間、前に藍子が、10月中旬に選考会があると言っていたのを思い出す。

それと同時に私は、えいりんと5区で戦うことが正式に決まったのだと理解する。

そうか。えいりんと対戦か。

前の駅伝メンバーの発表時もそうだったが、正式に決まると色々と身が引き締まる気がした。

えいりんと最後に対戦したのは、中学3年生の時だ。
駅伝で対戦すれば、実に3年振りとなる。

と、藍子が叫ぶ。

「と言うわけで、勝負しなさい。このままだと、あなたと一度も対戦せずに高校生活が終わってしまうのよ」

まったく……。
そんなこと言われても、私に決定権などまったくないのだが。

私は近くまで来ていた永野先生を見る。
当然、永野先生も何が起きているのか、事情はさっしているだろう。

永野先生と眼が合うと、こっちに歩み寄って来てため息を付く。

「おい、澤野。アップは終わったのか」
「いえ、今から体操をするところです」

「じゃぁ、早くしろ。それから、今日のメニューだが、予定変更だ。インターバルは辞める。今が16時半か……。17時15分から3000mのタイムトライを一本行う。以上」

永野先生はそれだけ言うと、回れ右をして歩きだす。
藍子がいるのを分かっているはずなのに、一切無視だ。

「あの、すいません、永野綾子さん。私、城華大付属の山崎藍子と言います。今日はお願いがあって来ました」
藍子の声に永野先生が足を止める。

「山崎藍子」
永野先生が唐突に名前を呼ぶと、「はい」と藍子が返事を返す。
その顔は、随分と不安そうな顔をしていた。

「お前、邪魔だから帰れ。私も一応阿部監督の教え子だ。仮にお前がここで怪我でもされたら、監督に顔向け出来ないんだよ」
優しさを一切含まず、冷たく永野先生は言い放つ。

藍子は「あの、待ってください。お願いです。せめて話だけでも」と懇願の声を出すが、永野先生は一切無視だ。

何も出来ないと分かったのか、藍子はその場に立ち尽くしてしまう。

と、永野先生は私の方を向く。

「なぁ、澤野。私は今、きちんと山崎藍子に帰れって言ったよな」
「え……。ええ、まぁ言いましたね」
私が返答すると、永野先生はふっと笑った。

「私は、突然桂水高校にやって来た城華大付属の山崎藍子に帰れと言った。きっとこれで山崎藍子は帰るはずだ。これにて一件落着。でも、私も色々忙しいからな。偶然、どこの誰かも知らないような高校生が、桂水高校のグランドで3000mをやったとしてもほったらかしだな。それも偶然、17時15分に澤野の横からスタートしたとしても、私はあまりの忙しさにきっと何も言えないだろうなぁ。あー! 本当に忙しい」

最後の方は棒読みになりながら、永野先生は藍子に聞こえるくらいの大きな声で喋ると、近くの腰掛に座ってしまう。どう考えても忙しそうには見えない。

まったく、永野先生も素直じゃないと言うか。