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風のごとく駆け抜けて

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駅伝前のあれやこれや


紗耶が学校にやって来たのは、県高校選手権が終わって1週間も経ってからだった。

紗耶が登校して来た日の昼休み、私達駅伝部の3年生3人は屋上へと来ていた。

「ごめんねぇ、2人とも。随分迷惑かけちゃったよぉ……。ごめん。本当に……」
出だしは明るくいつもの紗耶だったが、すぐに顔が曇ってしまった。

「もうそのことは気にしなくて良いわよ。あなたはまず治療に専念して。大丈夫、絶対に都大路に行って見せるから。そしたら紗耶にも走れるチャンスが回って来るかも知れないでしょ」
麻子の言葉に紗耶は「ありがとう……」と一言だけ言い俯く。

「紗耶、言いづらいかもしれないけど、実際腰の状態はどうなの?」
私の質問に紗耶は顔を上げて苦笑いする。

「正直に言うとぉ……。県駅伝は絶対に間に合わないって、自分でも分かってるかなぁ……。今、歩くのがやっとの状態だしねぇ……。でも都大路には間に合うようにリハビリを頑張ってみるつもりなんだよぉ。あと、リハビリが無い日はマネージャーとして頑張って行こうと思ってるんだよぉ。わたしも駅伝部の一員として、出来ることをしっかりとやって行くんだよぉ」

紗耶は泣きそうな顔をしていたが、泣くのをぐっと耐えて話してくれた。

私と麻子も、そんな紗耶に「分かった」「一緒に頑張ろう」と優しく声を掛ける。

その直後に屋上を秋風が吹く抜けて行く。
風に吹かれながらふと私は空を見上げた。

ここに来た時には多少あった雲もすっかり無くなり、快晴になっていた。

まるで今の私達を見て、晴美が「これでもう大丈夫。あとは駅伝までしっかり練習するだけかな」と笑いながら言ってくれているような気がした。

紗耶が登校して来た2日後の昼休み。
今度は紗耶の教室に私達は集まっていた。

「さて、決め方はあたし達に任せると昨日永野先生が言ってくれたので、投票にすることにしました」
麻子がそう言って、私と紗耶にルーズリーフを小さく切って作ったメモ紙を渡して来る。

「なんだか変な感じなんだよぉ。わたし達も次期キャプテンを決める立場にいるっていうのが」
「確かにそうよね。もう気が付けば3年生の10月。なんだかあっと言う間だった気がする」

紗耶と私がしみじみと言うと、麻子が苦笑いをしていた。

「いや、どこまでお気楽なのよ。あなた達は……。もう受験も差し迫って来てるし、駅伝だってもう一ヶ月も無いって言うのに」
「あさちゃん、もうちょっと肩の力を抜きなよぉ。そんなんじゃ、本番で緊張して……あ、シャーペンが落ちた」
「こら、紗耶。落ちたとか言わないでよ、縁起が悪い」

麻子の一言を聞き私は思った。
もしかしたら麻子は、駅伝よりも受験の方が気になっているのかもしれない。

「さあ、気を取り直して行くわよ。やり方は簡単。紘子、朋恵、アリスの3人のうち、次のキャプテンに相応しいと思う人の名前を、各自紙に書く。多数決で決めるけど、もしも票が3人ともバラバラなら、永野先生と由香里さんを入れて再選。いいわね?」

私と紗耶が頷き、それぞれ紙に名前を書き始める。
私は最初から誰を書くか決めていた。

「じゃぁいい?」
麻子の一言に私と紗耶が頷き、麻子の合図で3人が一斉に机の上に紙を出す。

「あれ?」
「うそぉ」
「あら」
なんと3人とも同じ人物の名前を書いていた。

那須川朋恵。

まさかの満場一致で、次期キャプテンは朋恵と言うことになった。

「正直、朋恵を推すのはあたしだけかと思ってた」
「わたしもだよぉ。みんなが同じ意見でビックリしたんだよぉ」
「まぁ、入部してからの努力を見てればね。それに朋恵は、紘子やアリスにもしっかり意見がいえるし」

私達はお互いの顔を見て笑い出してしまう。
なんだかんだで、みんな部内のことをよく見てるんだと気付いたからだ。

「まぁ、このことはくれぐれも内密に。発表は県駅伝が終わったあとにするから。あ、ちなみに都大路に出るとしても県駅伝が終わってから言おうと思うんだけど、それでいいかしら?」

麻子の質問に私は特に反対意見も無かったので頷く。紗耶も頷いていた。

「でもぉ、ともちゃんのことだがら、『え? ひろこちゃんじゃないんですか? 私は部内で一番脚が遅いんですよ』とか言いそうなんだよぉ」
「うわ、言いそう。てか紗耶って随分と朋恵の真似が上手いのね」

驚く麻子に、紗耶がにやっと笑う。

「そうかなぁ。『だいたい、あんた達が普段からしっかりと後輩を見てないからでしょ。あたしなんて、ちょっと見たらそれくらい簡単に出来るわよ。でも、学力がちょっと残念だから、その辺は考慮してもらえるかしら』ってのも出来たりするんだよぉ」

紗耶の物まねに私は声を上げて笑ってしまう。
今のはあきらかに麻子の真似だ。

どうやら麻子自身、それに気付いているらしく、肩を震わせていた。

「どう言うつもりよ紗耶。なんんであたしが、そんな馬鹿キャラになってるわけ!」
麻子が不満そうに紗耶を睨む。

「いや、わりといつも、ああ言う感じだと思うけど?」
私が感想を漏らすと、麻子に頭を叩かれてしまった。