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風のごとく駆け抜けて

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次の日の朝、私が目を覚ますと布団が2つ程空になっていた。
麻子とアリスが出かけているようだ。

2人は今日が試合なので体を動かしに行ったのだろう。

2人が帰って来て全員で朝食を取り、競技場へと出かける。
紗耶がいないと全部で8人しかいない。

「澤野。お前はこっち」
なぜか名指しで指名され、私だけ永野先生の車に乗る。

「あの、なんで私だけこっちなんですか?」
「いや、お前にだけは教えておこうと思ってな。宮本が正式に明彩大に行くことが決まったそうだ。昨日の夜に牧村さんから連絡が来た」

その報告に私は思わず嬉しくなる。
小宮さんがどんな反応をするのかがすごく気になった。

でも、夏合宿の時にみんなも宮本さんと牧村さんを見ていたし、別に私だけ教えなくても良いのではないだろうか。

ふと、私は思った。本当はもっと別の話があるのではないだろうかと。
それを永野先生に聞いてみる。

「まぁ、普通にばれるよな」
永野先生はあっけらかんと返答する。

「澤野、お前もう佐々木のこと大丈夫なのか?」
永野先生は運転しながら私の方を見ずに尋ねて来た。

「そうですね。何もかもが完全に吹っ切れたと言えばウソになりますけど……。でも、本当に随分と気持ちは落ち着きました。この前も晴美のお墓に行って、頑張るって誓いましたから」
「そっか。まぁ、私としてはそこまで聞ければ安心だな」

「ここにたどり着くまでには、結構葛藤がありましたけどね。あと、気付いたんです。きっと私は一生晴美のことを忘れることは無いだろうし、色々あるたびに晴美のことを思い出すんだろうなって。でも、それも良いかなって」

「そうか。まあ、そう言う考え方もあるな。澤野が思い出してくれるだけでも、佐々木は幸せ者なのかもな」
永野先生はそれっきり何も言わなかった。

私も永野先生にそう言われ、自分が思ってることは間違っていなかったのだろうと感じる。

そうこうしているうちに競技場へと付いた。
私がスタンドに行くと、麻子とアリスがアップへと出かけるところだった。

「2人とも頑張ってね」
「まかせて。優勝してくるから」
「同じくアリスも優勝して来ます」
「いや、それ絶対にどちらかの願いしか叶わないから」
 冷静に突っ込みを入れて2人を送り出す。

その1500m決勝。
スタンドにいるのは私、紘子、朋恵、梓の4人だけだった。

「これだとなんだか、応援も寂しいですし」
「まぁね。でも私が1年の時なんて、部員自体が6人しかいなかったから、もっと寂しい時もあったわよ。大丈夫、紘子は声が大きいから。さぁ声出して応援するわよ」

不満を漏らす紘子をけしかけ、麻子とアリスの応援を始める。

スタートと同時に先頭に立ったのは、なんとアリスだった。
アリスの後ろに貴島由香が付き、麻子が3位だ。

アリスは飛び出ると同時に、速いペースで走り続ける。
貴島由香は無理に前へ出ようとはせず、アリスの後ろに付いたままだった。

「すごい……。アリスちゃん」
「ほんとアリスさんって、走ると金髪がなびいて綺麗ですね。うらやましい」
梓は心底羨ましそうに感想を漏らす。

そう言えば、前に晴美も同じようなことを言っていた。

「そうだ梓。前にアリスに聞いたけど、ヨーロッパでは逆らしいし。梓も向こうに移住すれば問題解決だし」

「どう言うことです? 紘子先輩」
「向こうでは黒髪が羨ましがられることがあるって話。梓、ロングだからさらにポイントアップだし」
紘子と梓の会話を聞いて思わず吹き出してしまった。

「人間どこも無い物ねだりなのね。てか別にロングだからポイントが高いってこともないでしょ。私はショートの方が好きだしね」
私がそう言って自分の髪をすっとかきあげると、なぜか紘子と梓が「おおー」と歓声を上げる。

「なんだか聖香先輩が大人っぽく見えた」
「いや、本当に聖香さん大人の魅力ですし」
いや、つまり普段は子供っぽいということか? あれか? 例によって身体的一部分がってことで良いのか? もう自分でも、ネタにすることに抵抗感がなくなって来てしまった気がしてならない。

「あの……。みなさん何をやってるんですか! しっかり応援してください!」
私と紘子、梓は朋恵に怒られてしまう。
よく見ると朋恵はかなり本気で怒っていた。

普段は大人しい朋恵に怒られ、私は心底反省する。と、横で永野先生が笑っていた。