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風のごとく駆け抜けて

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「でも……澤野さんすごいです。最後のレースで日本一なんですから」
朋恵が言うと梓とアリスも頷く。

「ほら、それよりも那須川さん。アップに行かなくて良いの? もう時間が無いわよ」
由香里さんが時計を見ながら催促をする。
言われて朋恵も慌てて支度を始める。

今までだと晴美がこう言うことを言っていたなと、ふと思ってしまった。

朋恵が出かけた後で私もトイレへと出かける。
その帰り道で、ばったりとえいりんと藍子に出会った。

「久々ね、さわのん。もう大丈夫なの? あえてメールとか控えてたんだけど」
えいりんが何を言っているのか最初は分からなかった。

「私も桂水市出身なのよ。当然、桂水高校にも友達は何人もいるし、情報も回って来るわよ。熊本で会ったことがあっただけに私も驚いたわ」

どうやら、えいりんは晴美が亡くなったことを知っているようだった。

私は「もう大丈夫だよ」と返答する。

「今日は試合に出るの?」
えいりんの質問に私は首を振る。

藍子に何か言われるかと思ったが、珍しく何も言ってこなかった。
と言うより、さっきから藍子は一言も喋ってないのだ。

「そうか。まぁ私も出ないから、それはどうでもいいんだけど。時にさわのん。早く体力を戻して県駅伝の時は5区のスタート地点に立ってね。ちなみさっきも言ったけど、さわのんがしばらく部活に出てなかったことも私には筒抜けだから。でも、県駅伝の時までにきっちり戻って来てくれたらそれで良いわ。お願いだから、私の人生を無駄にするようなことだけはしないでね。でないと、わざわざ城華大付属に転校して来た意味がなくなるから」

えいりんはそれだけ言うと、1人で歩いて行ってしまった。

久々に会ったえいりんは、ずいぶんと雰囲気が変わってしまったように感じた。
なんと言うか親しみやすさが消えてしまったような気がする。

「あの……。澤野聖香。ちょっといい?」
なんだか藍子は逆に大人しくなって、親しみが出た気がする。
言ったら怒るだろうなと思い、さすがにそれは黙っておく。

「市島瑛理のこと気にしなくていいわよ。今の態度わざとだから」
藍子の一言に私は思わず「え?」と聞き返してしまう。

「市島瑛理が城華大付属に来た理由知ってるわよね。憎ったらしいけどあなたと勝負するためよ。澤野聖香。でね、あなたの友達が亡くなったんでしょ?」
私は静がに頷く。

「市島瑛理が言ってたの。『今、さわのんに同情をしてしまったら、駅伝で同じ区間になった時に絶対に手を抜いてしまうって。だから駅伝が終わるまでは、さわのんとは親友ではなくただのライバルになるんだ』って。まったく、あの子不器用よね。あなたと対戦したいからって、わざわざ転校までして来るし、その上近づかないようにしようとするし」

「いや、藍子も私と随分と対戦したがってるじゃない」
私の一言に藍子は落ち込んだ顔になる。

「もう、それは叶わないって分かったから。てか市島瑛理に勝てない時点で、私は今年5区を走れないだろうし。まぁ、10月中旬に選考会があるから、まだあきらめてはないけど……。それでも……いや私の話はどうでもいいでしょ」
藍子は無理矢理話を終わらせてしまう。

「あ、それと市島瑛理の肩を持つわけじゃないけど、あの子、あなたのことを本当に親友だと思ってるからこそ、今はあんな態度なんだと思う。現に、最近瑛理ったら勉強をめちゃくちゃ頑張ってるのよ。理由を聞いたら、『さわのんと同じ大学に行くって約束してるから』ですって。まったく……ただのライバルとか言いながら、その先はしっかりと親友でいるつもりなんだから」
藍子は苦笑いをし、「私が喋ったって内緒よ。って多分あなたと市島瑛理は、駅伝が終わるまでは会話もないでしょうけど」
と言って、立ち去ってしまった。

本当に、えいりんにも困ったもんだ。

ただ、えいりんが本気だと言うことはよく分かった。
これからの練習も、今まで以上に気合いを入れて頑張らないといけないなと感じる。

トイレから帰ると、アリスの隣に千鶴が座っていた。

「すごいわね聖香の学校。金髪で青い目をした子がいるなんて。連れて帰りたいくらい」
「いや、千鶴。あなた何をしに来たのよ。って大体想像ついてるけど」
そう、プログラムを見た時に気付いていた。
800mの最終組に千鶴の名前もあったことを。

ちなみに、なぜか1500mにはエントリーされていなかった。
どうやら800m一本に絞ったようだ。

「じゃぁ言わないわ。今回こそ負けないわよって言いに来て、棄権するって聞いてビックリした。色々大変だったみたいね。いまあなたの後輩から聞いたわ。でも、元気そうな顔を見れて安心した。あたしが800mで圧勝する姿を見てやる気を出してね。ってことでアップに行ってくる」

そうだ。さっき朋恵がアップに行ったのだ。
千鶴だって行かないと間に合わないだろうに。

もしかして、私が帰って来るのを待っていたのだろか。

千鶴が帰った後で、私は永野先生の隣に座る。

「今、市島瑛理と山崎藍子に会いました。なんか普通に私が走って無いことバレてましたよ。しかも、早く体力を戻して、全力で駅伝を戦いましょうって言われました」

それを聞いて永野先生が笑いだす。

「本当にお前らって良い性格してるな。きっとあれだな。お前ら3人はこれから先、一生仲が良いんだろうな。ライバルなのに仲が良いって羨ましいな」
喋る先生の顔を見て、最後の一言は永野先生の本音なんだろうなと感じた。