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風のごとく駆け抜けて

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澤野聖香復活!!


それから数日後。
私は9月になって初めて登校した。

1人での登校はなんだか寂しかったが、いずれは慣れて行くのだろう。

クラスの友達も変に気を使うこと無く、いつも通り話しかけて来てくれた。

そして放課後。
部活に出る前に、永野先生に呼ばれ職員室へと行く。

私が来たのを見つけると、永野先生は会議室へ行くようにと手で合図をする。

「もう大丈夫なのか?」
永野先生の質問に私は静かに頷く。

「時に澤野。正直に隠さず言って欲しいのだが。佐々木が亡くなってから今日まで走ったか?」
私は申し訳なく首を横に降ることしか出来なかった。

「そっか。まぁ、仕方ないな。一応、言っておく。私は今この状況においても、今年は澤野をアンカーにしようと考えてる。城華大付属は間違いなく市島が来るだろうからな。湯川も十分に力はあるが、市島に対抗出来るのはお前しかいないと思う」
夏合宿に晴美から聞いた通りのことを永野先生は説明してくれた。

「と言うわけで、県駅伝本番まで澤野だけ別メニューで行くからな。何があっても当日までに体力を戻し、駅伝のアンカーである5区5キロをきちんと走れる練習に専念してもらう。それと先に言っておくと、県高校選手権のエントリーから澤野は外すから。目先の試合で調整している時間なんてない」

永野先生の強い言葉に私は「分かりました」とだけ返事をして、職員室を後にした。

その足で、部室へと向かう。

ドアの向こうにみんながいるのは分かってる。
分かっているからこそ、そのドアを開けることに随分と緊張してしまう。

でもいつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
私は前に進むと決めたのだから。

がチャと音を立ててドアが開く。

「おかえり、せいちゃん」
「遅いわよ聖香」
ドアの近くにいた紗耶と麻子が真っ先に声を掛けて来る。

他の部員も次々と私に声を掛けて来た。

「さぁ、さっさと着替えて練習するわよ。あたし達に立ち止まってる時間はないのよ。晴美が都大路で待ってるんだから」
つい数日前、麻子が私の部屋にやって来て言ったセリフをまた口に出していた。

「そうね。これで私達が都大路に行かなかったら、晴美に恨まれそうだしね」
私はあの時とは別の言葉で麻子に返答する。
その言葉を聞いて、麻子は静かに笑っていた。


「こら! 澤野。ペースが早過ぎる。あくまでジョグと言っただろうが」
私がペースを上げると永野先生から注意が来た。

先ほど説明を受けた通り、私だけ別メニューが用意されていた。

今週はひたすらジョグと流し、筋トレのみとなっている。

焦ってはいけないと分かっていても、グランドの中で他の部員がポイント練習をやっているのを見ると、ついついペースを上げたくなってしまう。

ただ、思っていた以上に、この一ヶ月間走っていなかったダメージは大きかった。
多分、食事もほとんど食べていなかったのも原因の一つではあると思うが。

最初の10分くらいはついついペースを上げて永野先生に怒られていたが、それから20分もすると、あきらかにペースが落ちているのが分かった。

脚が前へと出て行かないのだ。

「こら澤野、ペースはゆっくりでも良いからフォームは絶対に崩すな」
さっきとまったく別の理由で注意を受けてしまう。

それでもなんとか60分ほどジョグをしたのち、流しと筋トレを行って今日の練習は終了となる。

「やっぱり聖香が戻って来ると、部の雰囲気が変わるわね」
練習が終わり、部室で着替えている時に麻子が言う。

「と言うより、麻子さんが変わり過ぎですし。聖香さんがいないと、あきらかに落ち込んでいましたし」
「ちょっと紘子。適当なこと言わないでよ」
「アリス的にも同意見ですね。湯川さんがようやく元気になった感じがします」

「そんなことないわよ!」
紘子とアリスに思わぬ攻撃を受け、麻子はふて腐れていた。

でも、私の側に来て紗耶がそっと私に耳打ちをして来る。

「実はあさちゃん。せいちゃんまでいなくなったらどうしようって、わたしの前で泣いてたんだよぉ」
にわかに紗耶の言葉が信じられなかった。
私の部屋に来てあれだけ怒っていたのに。