小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

風のごとく駆け抜けて

INDEX|249ページ/283ページ|

次のページ前のページ
 

泊めてもらうのに何もしないのも気が引けるので、倉安さんが家事をする間、私は椎菜ちゃんと遊ぶことにした。

倉安さんからは「無理しなくて良いのよ。ゆっくり座ってなさいよ。子供の体力ってすごいから」と言われたが、たかが子供、どうってことないと思っていた。

しかし、自分の認識が甘かったとすぐに気付く。
椎菜ちゃんは飛び跳ねるように遊び、目を離すと走ってどこかへと逃げて行く。

だからと言って捕まえると暴れ出し、離すとまた飛び跳ねるように遊ぶ。

2時間もすると私の方が先にダウンしてしまい、秘密兵器のボタンを押す羽目になった。

「ごめん椎菜ちゃん。私、もう無理」
私は、倉安さんから渡されていたリモコンのスイッチを押す。

「椎菜に耐えられなくなったらこの再生ボタンを押してね。一瞬で大人しくなるから」
遊び始める前にそう説明され、リモコンを渡されていた。

まさか使う羽目になるとは。

ボタンを押すと同時に子供に大人気のアニメが流れ始める。

今までのはしゃぎ様がウソのように椎菜ちゃんは大人しくなり、じっとアニメを見始めた。その突然の変わりようが面白く、私は吹き出してしまう。

しばらくすると、倉安さんが家事を終えて戻って来る。

「やっぱりダメでした。子供ってすごいですね」
「でしょ? でも今日は特別元気だったけどね。聖香のことが気に入ったみたいね」
苦笑いする私とは対照的に、倉安さんは微笑む。

それから晩御飯の前にお風呂を借り、3人で御飯を食べる。
その後、倉安さんと椎菜ちゃんがお風呂に入る。

その間に、断る倉安さんを押し切って食器を洗う。
洗い終わってしばらくすると2人がお風呂から上がって来た。

「はい、椎菜。聖香お姉ちゃんにおやすみなさいは?」
「おやすみなさい」

椎菜ちゃんが一生懸命にそう言って頭を下げる。
私が「おやすみ」と返すと2人はベッドへと行く。

20分もしないうちに倉安さんが帰って来た。

「今日は随分とはしゃいでたからね。すぐに寝たわ」
リビングに戻って来ると、倉安さんはお茶を出してくれた。

「椎菜が生まれる前はこれがビールだったんだけどね」
お茶の入ったグラスをじっと見つめながら倉安さんはため息を付く。

と、私の顔をじっと見て来た。

「あたしはさぁ、剣道しかやったことが無いからよく分からないんだけど。聖香ってここ一ヶ月近くずっと引き籠ってたんでしょ? でも後二ヶ月したら駅伝よね? それって大丈夫なの? 体力的な面から見て。随分と体力とか落ちてたりしない?」

なんともきつい質問だった。
そのことについては私自身色々と考えていた。

「本音を言うとまったく問題ありませんよ。とは口が裂けても言えないですね。私達が全国に行くためには城華大付属高校に勝たないといけないんですが……。かなりの強敵なんですよね。現に二年連続で負けてますし。でもどうにかしてみせます。晴美が待っていますから」
自分に言い聞かせるように、最後の方は力を込めて喋る。
倉安さんは「そっか……頑張れ」と静かにつぶやきお茶を飲み始めていた。


倉安さんの家に泊った二日後。私はある場所に来ていた。

小高い丘にあるその場所から見える桂水市は、予想以上に綺麗だった。

「晴美、随分と眺めが良いところにいるのね」
私はそう言って後ろを振り返る。
そこにあるお墓は、私に返事を返すわけもなく、ただ静かに立っていた。

今日は晴美のお墓参りだ。
倉安さんの家から帰り、私は晴美の実家へと向かった。

あの通夜以来の訪問だったが、不思議と何年も来ていないような気がしていた。

仏壇に手を合わせて帰ろうと思っていたが、晴美のお母さんから「納骨も済ませてあるのでお墓に参ってもらえると晴美も喜ぶと思う」と言われ、場所を聞き、今日改めてやって来たのだ。

お墓に花を添え、水を掛けて手を合わせる。

「ごめんね。私、晴美がいなくなってから落ち込んで……、全然走ってなかった。でも、これからまた頑張るから。都大路、絶対に走るから。だから……安心して見てて」

晴美に報告しながらも自分に言い聞かせるように言葉を口に出す。