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風のごとく駆け抜けて

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宮本さんのスパートによって先頭集団は完全にばらける。

宮本さん、藍子、聖ルートリア、泉原学院、もう1人名前の分からない城華大付属の選手、5人がそれぞれ1mから2m程の間隔を開けながら縦一列になって走る。

それと対照的に葵先輩は3人の集団のまま走り続けている。
葵先輩と9位の選手の差はすでに15m程に広がっていた。

ペースも落ちていないし、このまま行けば8位はキープ出来そうだ。

もちろん一つでも上の順位、1秒でも速いタイムを出して欲しいし、そのために私も必死で葵先輩を応援する。

葵先輩が私の前を通過した後、今度は藍子を眼で追う。

レース前、強気に「私のレースを見てなさい」と言っていただけのことはあり、今でも2位で走り続けていた。

3000mの3組目と言えば、いわば各校のエースが集まる組だ。
そんな人達を相手に先頭を引っ張り続け、物怖じすることなく、堂々と走っている。

えいりんも藍子も、私が親と色々あって走ることをあきらめたり、そこからみんなに出会ってまた走り出したりと、色々やっているうちに一気に力をつけていた。

正直、そんな彼女達を見ても不思議と悔しさはなかった。
むしろ、ちょっと面白いかもと感じている自分がいる。

どんなにすごくなっても、私は絶対に追いついてみせる。いや、追い抜いてみせる。

そう思っているとラスト1周の鐘が鳴る。

先頭を走る宮本さんはここでさらにペースを上げて来る。
藍子とはすでに5秒近い差が開いていた。

それでも宮本さんは油断することなく、顔をややしかめながらも必死に前へと進んでいる。

それを追う2位の藍子はそれ以上に必死だった。

ラスト1周になると、腕振りと脚の動きをコンパクトな動作に切り替えていた。

視線はあきらかに宮本さんを捕らえ続けている。
まるで、視界から消えると追えなくなってしまうと言わんばかりの気迫だった。

そして葵先輩もラスト1周を過ぎ、私の前を通過する。

「葵先輩、頑張ってください。前追えますよ」
ありったけの声で私は叫ぶ。

3人の集団は、1人が飛び出し、後ろから葵先輩ともう1人が競りながら追っている形となっていた。

今の段階で葵先輩が7位争いだ。
私の必死さとは正反対に葵先輩は冷静に淡々と走っている。
その走りを見た私自身、ちょっとヒートアップしてしまったっかなと冷静になれるくらい落ち着いた走りだった。

どんな時でも、冷静に落ちついて判断出来る葵先輩の性格がそのまま走りに出ている気がした。

それを見て私もゴールまで移動する。

先頭がラスト200mを切り競技場内はあちこちで歓声が上がり始めていた。

ラスト200mになっても宮本さんはまったくペースを緩めることなくそのままトップでゴールする。

2位の藍子も必死で追っていたものの、差を縮める事は出来ず、ゴールした時には悔しそうな顔をしていた。2位でも全く納得していない辺りが藍子らしい。

3位から5位までも順位は変わらず、聖ルートリア、泉原学院、城華大付属と続々と選手がゴールする。

葵先輩はラスト100mになって一瞬だけ単独7位にあがったもの、後ろの選手がそこから猛烈なスパートをかけ、順位が再度入れ替わり、8位でゴールした。

「葵先輩、お疲れさまです」
ゴールした葵先輩に声をかける。
5月下旬の暑さのせいか、それとも必死さの表れか、葵先輩は汗で全身が包み込まれていた。

「きつかったぁ。最後負けちゃったわ」
葵先輩の顔は清々しかった。
きっとすべてを出し切ったが故の満足感だろう。

オーロラビジョンに発表されたタイムも9分43秒44とかなり良い。

藍子のタイムが気になり私は視線を上に向ける。

9分33秒31。
そのタイムは藍子の飛び抜けた実力と、このレースでの必死さを表すのには十分なものだった。

「どう。澤野聖香?」
「恐れ入った。やるわね」
後ろから声をかけて来たのが藍子だと分かり、私は振り返りもせずに返事をする。

「どうも。あなたも早くこの場に上がって来なさい。直接対決で叩きのめしてあげるから」
藍子はそれだけ言うと私の後ろから去って行く。