小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

風のごとく駆け抜けて

INDEX|237ページ/283ページ|

次のページ前のページ
 

「ゲストって、くみちゃん先輩とかですかぁ?」
「残念だな藤木。北原には合宿前に声を掛けたんだが、大阪から帰れないそうだ」
永野先生の一言に、みんなは様々な反応を見せた。

紗耶、晴美、麻子は一緒に走った先輩が今大阪にいると知って驚き、昨年の合宿で会っただけの紘子、朋恵は「北原さんって昨年来た人だよね」と2人で話す。

全く面識のないアリスは首を傾げ、梓は「葵姉が言ってたなあ」と余裕の顔。

正直私も、ゲストは久美子先輩だろうと思っていただけに、内心驚いていた。

本当に誰が来るのか予想が付かなかった。
ただ、私によろしくと言うあたり、私の関係者なのだろうか。

そのゲストがやって来たのは5日目の午後だった。

昼食を済ませた直後に合宿所の前に一台の車がやって来る。
白の軽自動車に初心者マークが貼られていた。

一体誰だろうか。少なくとも先生方に初心者マークを張っている人はいないはずだ。

運転席から降りて来た人を見て、私は思わず声を上げる。

「宮本さんじゃないですか」
昨年、文房具屋で会った時よりも若干髪は短くなっていたが、あの時以上に茶色に染まっており、それが夏の日差しに照らされて綺麗に光っていた。

「宮本さん、相当走ってますよね」
Tシャツ半パンで車から降りてきた宮本さんを見て、私は気になったことを口に出す。

半パンから見える脚は、全くと言って良いほど無駄な脂肪が無く、細いながらもがっちりとしていた。

私の質問に宮本さんは笑顔になる。

「最近は月に600キロくらい走ってるよ。これも澤野のおかげだけどね。昨年、澤野が電話して来なかったら、多分悩みながらも走るのを辞めてたと思う。あの電話がきっかけで頑張ろうって気になったもん。もちろん小宮にも感謝してるけどね。あ、今日ここに来ることを小宮に言ったら、日本選手権優勝おめでとうって伝えておいてだって」

私と宮本さんのやり取りを、みんなが遠巻きに見ているのに気付いた。
宮本さんをみんなに紹介し、永野先生を呼びに行く。

「どうだ澤野。ビックリしたか?」
「ええ。まさか宮本さんが来るとは思いませんでしたよ」

その言葉を聞くと、永野先生は嬉しそうに鼻歌を歌いながら、宮本さんの所へと向かう。宮本さんは宿泊部屋にいた。

「と言うわけで、私は城華大への進学を辞めて働きだしたの。それから色々あって走りだしたんだけど、やっぱりどこかのチームに属するってプラスが大きいと思うわよ。部活でも地域のクラブチームでも。私も、もう一度どこかで走りたいと思うけど……。いまさら城華大には入れないしね。そもそも大学を受験するだけの頭が無いし。勉強なんて2年もやらなかったら、ほとんど忘れるわね。元々知識が無かったってのもあるけど」

たった数分の間で、宮本さんは桂水高校駅伝部の輪に溶け込んでいた。
前にテレビで接客業をしている人は初対面の人とでも簡単に会話が出来るとやっていたが、そう言うのもあるのだろうか。

「お疲れ宮本。悪かったな突然呼んで」
「とんでも無いです。むしろこちらこそ、呼んでいただきありがとうございます。ましてや一緒に練習をさせてもらえるなんて。最近1人で走っているので、こんな貴重なチャンス滅多にないです」

永野先生の声を聞くと同時に宮本さんは話を辞め立ち上がり、深々と永野先生にお辞儀をする。

あ、やっぱり宮本さんは一緒に走るためにやって来たのか。
まぁ、どう考えてもお茶を飲みにきた感じには見えなかったが……。

しばらく、宮本さんと雑談をしたのち、午後練を始める時間となる。

今日の午後練は3000mタイムトライとなっていた。
午前中に15キロのビルドアップをやっているため、脚はパンパンだ。

私達がグランドに出ると、一台の車が大きな音を立てながら入って来た。

その車を見て一瞬目を疑った。
あきらかに見覚えのある車だ。

でも信じられなかった。なぜここに。

白のRX=7から降りて来たのは、やはり牧村さんだった。
どうして関西にある明彩大の監督がこんなところに。

牧村さんはまっすぐに私達の所へやって来る。

「牧村さんお疲れ様です。わざわざありがとうございました」
永野先生が丁寧に出迎える。

「まぁ、桂水には一度来てるしね。迷いはしなかったけど。澤野、久々ね。考えが変わってうれしいわ」
牧村さんの笑顔とは対照的に、私は首を傾げる。

「牧村さん、その話は後で。取りあえず今らか3000mのタイムトライをやるから見ててください」
永野先生はそれだけ言うと私達に早くアップに行くように急かす。

アップ中にみんなが私に説明を求めて来たので、昨年合宿で行った大学の監督さんだと教えておいた。

ただ、みんなもなぜそんな人がここに? と疑問に思っていた。

もちろん、私自身まったく意味が分からなかった。

もしかしたら私の勧誘だろうか。

でも、私の中ではやはり理科教師と言う大きな目標があるので、明彩大に進学する自分の姿は想像が付かなかった。