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風のごとく駆け抜けて

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「若宮って料理上手いんだな」
紘子の料理を一口食べ永野先生が驚く。
そう言えば永野先生、紘子の料理を食べるのは初めてなのか。

紘子のおかげで十分にお腹がいっぱいになったころ、由香里さんがやって来る。

「お待たせ綾子。みんながお腹空いていると思って、仕事を早めに切り上げて食材買って来たわよ」
息を切らせつつ由香里さんがスーパーの袋を机に置こうとして、手が止まる。

「あれ? 食材あったの?」
「ああ。若宮が上手くやってくれたから助かったよ。いやぁ、若宮は良い奥さんになるぞ」
「もちろん、私が紘子と結婚します」

永野先生が言うやいなや、麻子が元気よく手を上げる

気のせいだろうか。
前にも麻子が結婚を申し込んだことがあるような気がするのだが。

「じゃぁこれはどうしようか。冷蔵庫に入れておく?」
由香里さんがスーパーの袋から肉や魚、野菜を取り出していく。

「待ってよ、由香里。冷蔵庫が壊れたって言ったでしょ。なんでそんなもの買って来てるのよ」
「え? 食材が足りなくなったとしか聞いてなかったけど。まぁ、いいわ。これは持って帰って旦那に料理してもらうから」

「せめて、自分で料理出来るようになろうね。由香里……」
永野先生はあわれみの眼で由香里さんを見る。

その視線に気付いたのか、由香里さんは「卵料理くらい出来るんだからね」とつぶやいて、食材を持って帰って行ってしまった。

「いや、永野先生。あの食材がないと明日の朝御飯が無いですし」
「昼御飯もかな」
紘子と晴美の言葉を聞くと同時に永野先生は部屋を飛び出して行く。

さすが晴美と紘子だ。
正直私は、そこまでまったく頭が回っていなかった。

どうも麻子と紗耶も同じだったようで、「さすがあの2人ね」「はるちゃんとひろちゃんはすごいなぁ」と感心した声を出していた。

結局、由香里さんが持って来た食材は永野先生が許可を貰い、職員室横にある給湯室の冷蔵庫に入れることになった。

「化学・生物室準備室にも大きなのがあるのだがな」
最初はそこに入れるつもりだった永野先生を、紘子と晴美が必死で止めていた。
さすがに薬品などが入っている冷蔵庫に入った食材はあまり気分が良くない。

合宿三日目の朝。
朝食を食べていると合宿所に元気なあいさつが響き渡った。

声を聞くだけで分かる。
永野先生の妹、恵那ちゃんがやって来たのだ。

さっそく永野先生が玄関まで迎えに行く。
食堂にやって来た恵那ちゃんを見て誰もが驚く。

最後に会ったのは、いつだったろうか。
確か、昨年一緒にロードレースに出場した時だから、約九ヶ月前だ。

この九ヶ月で恵那ちゃんは随分と成長していた。

身長は前よりも10センチ近く高くなっているのではないのだろうか。

昨年までは、いかにも小学生と言った感じだったが、中学生になり今は随分と大人びて見えた。

部活で毎日走っているのだろう。
肌もしっかりと日焼けしていた。

ふと、二年前に初めて会った時も、恵那ちゃんは日焼けをしていたのを思い出す。

「アリス的にどう見ても永野先生の子供にしか見えないです。って、永野先生なんでアリスを殴ろうとするんですか」
「葵姉から話は聞いていたけど、実際に見てみると可愛い」
初めて恵那ちゃんを見たアリスと梓が、真っ先に恵那ちゃんに駆け寄って行く。

「とりあえず、ブレロと大和妹。朝御飯を食べろ。ってここは幼稚園かまったく」
永野先生に注意され、2人も席へと戻る。

「可愛いけど……。恵那ちゃんって私より速いんですよね」
「大丈夫だよ朋恵ちゃん。朋恵ちゃんも十分に早くなってるかな」
恵那ちゃんを見て落ち込む朋恵を、晴美が笑顔でフォローする。

でも実際、恵那ちゃんの実力はいったいどれくらいなのだろうか。

昨年のロードレースの時に、3キロを10分一桁で優勝していたが、ロードだとコースによってタイムが若干変わってくるので何とも言えないところもある。

ただ、800mで全中に出ると言うことはそれなりの記録を出していると言うことだ。

「恵那ちゃん、今800mの全国参加標準ていくつなの」
「はい。2分17秒ですよ。私は6月の県選手権で2分16秒52を出して出場権を得ました」
私が聞くと、恵那ちゃんは嬉しそうに語ってくれた。

と、麻子が不思議そうな顔をして私を見る。

「全国大会って山口県、中国地区と勝ち抜いて行かないといけないんじゃないの?」
「ですよね。アリスも思いました」
そうか、麻子もアリスも高校から陸上を始めたから知らないのか。

「高校はそうなんだけどね。中学生は、指定された記録を切ると何人でも出場出来るのよ」
私の説明に2人とも感心したように頷く。