風のごとく駆け抜けて
マイルを走ったメンバーがスタンドに戻って来ると、みんなで笑い合いながら、今のレースについて色々と語り合う。
「きつかったよぉ。でも最初で最後の良い思い出になったんだよぉ」
紗耶は達成感に満ち溢れた顔をしている。
そんな中、晴美だけが難しそうな顔をしながら、プログラムと睨めっこをしていた。
「これ、もしかして……。ひょっとすると、ひょっとするかな」
と、アナウンスが流れ始める。
「先ほど行われました、女子4×400mリレーの結果、タイム順により準決勝に進出いたしますチームが決まりましたので、お知らせいたします」
その後、全部で4チームがタイムで拾われることを説明し、学校名が呼ばれて行く。
ただ、みんなあまり関心がないのだろう。
聞きながら荷物の整理などを始めていた。
「2組目を走りました、桂水高校。以上4チームが午後から行われます、準決勝へと進出いたします」
私は思わず飲んでいたスポーツドリンクを噴き出しそうになった。
「ちょっと、なんであたし達が準決勝に残ってるのよ」
「うそぉ。え? わたし達が?」
「アリスがあんなに足を引っ張ったのに」
どうやら走ったメンバーですら予想外だったようだ。
「まいったなあ。これは想定外だぞ。おい大和妹、準決勝は湯川と代われ。それから準決勝は若宮、大和妹、ブレロ、藤木の順で走れ」
永野先生にとっても想像の範囲外だったようで、あたふたと指示を出していた。
明日1500mを走る麻子が準決勝から外れ、代わりに梓がメンバー入りをする。
「正直、次はもうだめかもぉ」
「アリスは予選ですらダメでした。準決勝はもっとピンチです」
走ったメンバーもどうせこれ1本だからと全力を使い切ってしまったようだ。
そして、午後から行われた準決勝。
やはり、元々周りが短距離選手ばかりと言うこともあり、私達はまったく勝負にならなかった。
1走の紘子ですら脚が重たくなっていたのだろう。
6位で梓にバトンを渡すのがやっとだった。
梓はどうにか6位のままアリスに繋ぐが、アリスで8位、つまりは最下位に落ちると紗耶も逆転出来ずにそのまま最下位でゴール。
でも永野先生は、「追加でスピード練習が出来たから十分だ」と満足げな顔をしていた。
ただ、2回走った紘子、アリス、紗耶はかなりきつそうだったが。
よくよく考えると、このメンバーは昨日3000mを走っているメンバーでもあるのだ。
それはきついはずだ。
リレーが終わり、ダウンも終わると全員で宿へと戻る。
昨日は永野先生に用事を頼まれ1人で入ったが、今日はみんなと入ることが出来る。
よくよく話を聞くと、みんなも昨日は3000mを走った組と走らなかった組で別けて入ったらしい。
つまりみんなで入るのはこれが初と言うことだ。
「アリスの家にもこんなに大きな風呂があったら良いのに」
「そう言えば、麻子は露天風呂が付いた家に住むのが夢だったわよね」
修学旅行での話を思い出し、麻子をからかう。
と、麻子はさっきからアリスをじっと見て動きが止まっていた。
「どうしたの麻子?」
「え、いや。ほらさぁ。アリスって金髪じゃない。髪が金髪だと下はどうなってるのかなって」
麻子に向かって一斉に風呂桶や石鹸、シャンプーのボトル、タオルなどが飛んでゆく。
「ちょっと痛いって。でも気になるでしょ。って熱い! 誰よ」
誰でもない。アリス本人だった。
「湯川さんの心が穢れているのでアリスが熱湯消毒をします」
シャワーで熱湯をかけ続けるアリスの眼はまったく笑っていなかった。もしかしたら割と本気で怒っているのかもしれない。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻