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風のごとく駆け抜けて

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そんなやり取りをしていると梓がトラックに入って来る。

偶然なのだろうか。それとも姉妹だからなのろうか。
葵先輩と同じように肩まで髪を伸ばしている梓は、走る時だけ髪をまとめている。

そのまとめ方が今日はいつもとは違っていた。
なんと、葵先輩とまったく同じようにポニーテールでまとめていたのだ。

「あずちゃん、なんだかんだ言ってあおちゃん先輩のこと好きだよねぇ。あの髪留め、あおちゃん先輩のだよぉ」

紗耶に言われて初めて気付いた。
遠目にしか確認出来ないが、梓が付けている青色の小さなリボンが付いた髪留めは、間違いなく県駅伝の時に葵先輩が付けていたものだ。

「あたし男兄弟しかいないけど、姉妹ってそんなもんじゃないの?」
「いや、絶対梓は仲が良いですし。自分の所は姉とそこまで仲良くないですし」
「うーん。私も姉のところに遊びに行ったりするから、仲は悪くないかもしれないけど。姉のアクセサリーを貰おうとは思わないかも」
麻子の質問に紘子と私が続けて答える。

「わたしは双子だから結構仲は良いんんだよぉ。服とかも貸し借りしてるよぉ」
やっぱり紗耶のように双子だと、そう言うもんなのだろうか。

「まぁ、歳があまりに離れすぎてると親子みたいな感覚だけどな」
と言うより永野先生と恵那ちゃんは本当に親子としてもおかしくないくらい歳が離れているのだが。

実際に、恵那ちゃんと永野先生の歳の差は22歳だ。

「と言うより、永野先生と恵那ちゃんって親子くらい歳離れてますから。てか先生結婚とかしないんですか?」
麻子が遠慮なく永野先生に尋ねる。麻子の良い所は立場に関係無く、はっきりものを言える所だと思う。現に、そう言う場面を何度も見て来た。

だが、さすがに今回は地雷を踏んだと思う。

幸運だったのは、永野先生がショックを受けると同時に梓のスタートを告げるピストルが鳴ったことだろうか。

梓はスタートすると同時にグングンと前へ出て行き、150m行った所で先頭に立ってしまった。

「随分と積極的に前へ出るわね。普段はどうしてもあたし達が前にいるから分からないけど、これが梓の走りなのかしら」

さすがに永野先生に言った一言が失言だったと気付いたのか、まるで話題を変えるかのように麻子が積極的に喋る。

「少なくとも、梓ちゃんは周りを見て合わせて走るタイプじゃないかな。普段の練習でも前に行ける時は行く感じかな」

晴美の一言には本当に驚いた。
タイムを取るだけで無く、各選手の動きもしっかりと見れるようになっていたのだ。

梓は先頭を引っ張ったまま走る続ける。
多少オーバーペースのような気もするが、今はリズムに乗っているのでこれで良いのかもしれない。

「まぁ、もともと大和妹はスピード練習の一環として、今回800mに出場させたからな。これくらい積極的に行ってもらったほうが助かる」

永野先生の声が届いているのか、それとも何らかの指示が出ているのか。
梓は先頭に出てもペースを緩めることなく走り続ける。

「それにしてもこうやって見ると大和さんって、本当お姉さんにそっくりね。まるでお姉さんのほうが800mを走っているみたい。お姉さんが800mを走るところは見たことがないから、なんとも新鮮な感じがするわね」
梓のレースを見ながら由香里さんがつぶやく。

言われてみれば、本当になんだか不思議な感じがした。
本人も意識してのことかも知れないが、見た目も随分と葵先輩に似ており、本当に葵先輩が走っているかのようだった。

まぁ、随分と違うところもあるのだが。

「間違ってもうちは、葵姉みたいな大食いは出来ません。葵姉、普段から食べる量が半端じゃないんですよ。あれ、絶対に我が家のエンゲル係数を上昇させてますから」
いつだったか、梓は必死になって訴えていた。

梓が先頭のままラスト1周の鐘がなる。
先頭に立っているとは言え、まだ4人の集団となっていた。
その集団と5位とは20m近くの差がある。

「この組が一番速いかな。このまま行けば梓ちゃんは準決勝に行けるよ」
晴美がプログラムにメモしている今までの組のラップを見がら言う。

「それは分かりませんよ晴美さん。梓が扱ける場合もありますし」
「そうね。それは多いにありうるわね」
 紘子と麻子。2人ともレース中に派手に扱けたことがあるので、この2人が言うと笑うに笑えない。

とは言え、梓の方は扱けることも無く順調にレースを進めて行く。
ラスト200mを切ったところで2位に落ちたものの、無理に順位を巻き返すことも無く、そのままの順位でゴールし準決勝へとコマを進めた。

「さぁ、次はわたし達が頑張る番だよぉ」
荷物をまとめ紗耶が立ち上がる。紘子、アリスと3000mに出場する3人がアップへと出かける。

私も荷物番として一緒に行くことになっていた。