風のごとく駆け抜けて
梓が入部して3日後、今年も新入部員歓迎3000mタイムトライが行われる。
昨年も思ったのだが、はたしてこれは歓迎しているのだろうか。
入部していきなり3000mを走らされるのは、拷問に近い気がする。
そんな心配とは逆に、今回のタイムトライは非常に有意義なものとなった。
まず、朋恵がまたもや3000mの自己新を更新し、10分27秒を叩き出す。これで一体何回連続の自己新更新だろうか。
と言うより、入部以来ずっと記録更新をしているはずだ。
まさに日々の努力が確実に実って来ている。
驚いたのはアリスだ。
三ヶ月前に転校して来て、すっかり部にも馴染んできた。
前の学校に陸上部が無かったため、走り方を根本的に理解していなかったが、三ヶ月間私達と一緒に練習をすると走り方のコツをつかんだらしく、今日のタイムトライでは麻子に5秒遅れと言う、とんでもない走りをみせた。
「アリスが走ると、金髪がなびいてすごく綺麗かな」
晴美はタイムを計る度に嬉しそうに言っている。
梓にいたっては、入部早々9分45秒と言うタイムを出した。
紗耶とほとんど変わらないタイムだ。
ちなみに梓について一番驚いたのは、タイムよりも中学時の実績だった。
「いえ、うちはずっと幽霊部員でしたから。公式戦は2回しか走ったことないんですよ。週に4日塾に行って、1日だけ陸上部に顔を出してジョグだけしての繰り返しでしたよ。もちろん休みも塾で。そもそも長距離の女子部員はうちだけでしから」
そうなのだ。梓は公式大会をまったくと言って良いほど走っていなにのに、このタイムを出したのだ。その理由はすぐに分かる。
「葵姉の夢を叶えるために桂水高校へ行くと決めた後から、葵姉が練習を見てくれるようになったんです。と言っても、葵姉がこの部の練習メニューを持って帰って来て、それを見ながら走るって感じでしたが。だから、うちが本気で練習し始めたのって、中3の11月からなんですよ」
大和家には、『中学生の時は練習をするな』と言う家訓でもあるのだろうか。
「それにしても、アリスは怖いわ。練習三ヶ月でここまでなんて。どう言う才能をしてるのよ。あたしそのうち抜かれそうだし。まったく金髪碧眼で足も速いって……。うらやましい」
最後の方は随分と本音が漏れる麻子に、「いや、あなたの才能も相当なものなんだけど」と一応ツッコミは入れておいた。
3000mタイムトライの翌日。先日受けた模試が返って来る。
模試を含め、3年生になると嫌でも進路を意識する。
まずはクラスが文系と理系に別れている。
駅伝で言うと、私と麻子が理系。晴美と紗耶が文系となっていた。
普通科7クラス中、文系が5クラス。理系が2クラスと言う内訳になっており、理系は少数派だ。
女子で理系志望と言うのは極端に少なく、全部で20人しかいない。
しかもきっちり2つに別れており、各クラス10人ずつと言う寂しさだ。
麻子と一緒のクラスになれるかと思ったが、残念ながらそれは叶わなかった。
ちなみに模試の結果だが、ついに姉のいる信徳館大の理学部生物科でA評価を出せた。もちろん、Aが出たから確実に合格出来ると言うわけでは無いが、それでも大きな自信になるのは確かだ。
そう言えば先日、進路希望を信徳館大の理学部生物科のみしか書かずに提出したら、担任から呼び出しを食らってしまった。
次回は3つきちんと埋めて書くようにと言われたが、どうしようか迷ってしまう。もちろん、理科の教師になりたいと言う夢がある以上、教員免許を取れる大学へと進みたいのだが……。
えいりんとの約束もあるし悩んでしまう。
いやよく考えたら、大学に落ちる時点で約束を果たせてないのか。
そもそもえいりんはどうするつもりなのだろうか。
前にメールでそれとなく聞いてみたら、「さわのんと走りで勝負したいから城華大付属に編入したのであって、大学は予定通り信徳館大の栄養学部管理栄養科を受けるよ」と返ってきた。
どうやら本当に、それはそれ。これはこれ。と区別している感じだった。
まぁ、だからこそ、えいりんのことを親友でありライバルと声を大にして言えるのだろうが。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻