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風のごとく駆け抜けて

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「今年も暇ね」
「本当に暇だよぉ。去年の再来って感じがするんだよぉ」
麻子も紗耶もうな垂れるようにして、席に座っている。

「あの……。去年もこんなに暇だったんですか?」
「ええ。あなたと紘子が来た以外は誰1人として寄り付かなかったわ」
私の説明に朋恵も苦笑いをする。

「ちょっと。このままで言いんですか? アリス的には非常にマズいと思うんですけど」
「まぁ今のところ、部員の数は足りてるから。昨年みたいに誰か入らないと駅伝に出られないって状況じゃないし」

麻子がため息交じりに言うと、アリスがシャーペンを剣のように持って、麻子を睨む。

「ちょっと麻子さん! なんてことを。来年はどうするんですか。先輩方が抜けたら、アリス達の代は3人しかいないんですよ。いいんだ。アリス達が駅伝に出られなくなっても、麻子さんはいいんだ」

アリスの訴えに、麻子もことの重大さに気付いたのだろう。
ちょっと勧誘に回ってみようかなと独り言を喋り出す。

と、バタバタとしていると、人が来た気配がした。

「あ、すいません。新入部員の方ですか……。って葵さんじゃないですか」
「驚かせないでくださいよぉ。どうしたんですかぁ」
麻子と紗耶の頭を私は容赦なく叩く。

「痛い。なによ聖香!」
「馬鹿なの麻子。葵先輩は二週間前にお別れしたでしょうが」
私の一言に、麻子も紗耶もハッとした顔になる。
どうやら本気でボケていたようだ。

「あ、すません。あなたが昨年卒業した先輩にすごく似てまして」
改めて私が対応をすると、目の前の彼女がため息をつく。

「やっぱりそんなに似てますか? はぁ……。髪型変えようかな」
ため息をつきながら髪を触る彼女をよく見ると、本当に葵先輩にそっくりだった。

麻子と紗耶が間違うのも、多少は分かる気がした。

「私の名前は梓です。大和梓。昨年までここにいた大和葵はうちの姉です。姉が果たせなかった都大路出場を、うちが叶えたくて桂水高校に来ました。以後、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる梓を見て誰もが息をのむ。

ふと、葵先輩の顔が見れなくなるのを寂しいと言った時に「大丈夫」と言っていた理由が分かった気がした。

「てか葵さんも黙ってるなんて人が悪いし」
「すいません。それは葵姉曰く、最後のドッキリだそうです」
不機嫌そうに喋る紘子に、梓が苦笑いをする。

「それに葵姉は、うちが桂水高校に入学することを、最初は随分と反対していましたから」
笑う梓とは対照的に、私達は驚きを隠せなかった。

いや、何というか葵先輩ならそう言うことに対しては反対などしないような気がしていたからだ。

私達の表情に梓も気づいたのだろう。

「うちは元々広島の進学校に進む予定だったんです。あ、うちの家が病院なのは知ってますよね。うち、親のように医者になるのが夢なんで。でも、葵姉があの日帰って来た時、うちの中である気持ちが芽生えました。うちが葵姉の果たせなかった夢を叶えたいって」

最初、梓の言っているあの日が何をさすのか分からなかった。
ただ、話を聞いてピンと来たことがある。

「それって、昨年の県高校駅伝の日のこと?」
私が聞くと梓は「はい」と一言だけ頷く。

「あの駅伝。うちもテレビで見てました。葵姉は家に帰って来るなり、玄関で泣き崩れてしまって。それは酷いものでしたよ。うちがどんなに言葉をかけても起き上がらず。最後には両親が抱えてリビングに運びましたもん。そんな姿を見て、敵討ちってわけじゃないですけど、なんか決意のようなものが出て来て」

梓の話を聞いてふと思う。
葵先輩が駅伝の後で泣いていなかったのは、やはり私達のことを気遣ってのことだったのだろうと。

「てか、あなた随分と頭が良さそうに聞こえるんだけど、気のせいかしら」
麻子の問いに梓は苦笑いをする。

「何を持って頭が良いとするかは分かりませんが、塾でやった全国模試だと全国7位でしたね」
それを聞いた途端。誰もが言葉を失った。

「そう言うわけで、葵姉に桂水高校に進学するって言ったんですけど。最初は猛反対されまして。あなたはあなたの道を歩めって。『だいたい、あなたが中学で陸上部に所属してるのもうちの影響でしょ』って人生まで否定されちゃいました。まぁその後で、これがうちの歩みたい道だって言ったら、姉は折れてくれましたが。色々と条件は出されましたけどね。ちなみに両親は、姉が泣き崩れてるのを見た時に、うちが桂水高校に行くと言い出すのを予想していたみたいで。特に何も言われませんでしたね」

随分とおおらかな両親だなと思った
そう言えば、ずっと前に久美子先輩が話していた葵先輩の母親のイメージも、どちらかと言うと優しい感じがした。

結局、駅伝部を訪れたのは梓1人だけだった。
麻子が勧誘に出かけるも、まったく手ごたえは無し。

「まぁ、仕方無いですし。運動があまり盛んでないこの学校で、県で2番と言う部活に入ろうとする人は少ないでしょうし。ましてやスポーツ推薦が無い上に進学校だから、名のある中学生もなかなか入ってこないですし」

紘子の言うことはもっともだと思った。

それでも葵先輩の妹である梓を加え、合計8人で桂水高校女子駅伝部が新たなスタートを切ることとなった。