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風のごとく駆け抜けて

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気が付けば、あっと言う間に梓が入部して20日あまりが過ぎ、大型連休も目前に迫っていた。

梓はまるでずっと前から部活にいると感じてしまうくらい、部の雰囲気に馴染んでいた。

理由は色々とある。

葵先輩から私達のことを色々聞いていたこともあるし、梓自身は否定するものの、やはり葵先輩と姉妹なだけあって発言や考え方がそっくりな所が多々あり、行動が読みやすいと言うこともあげられる。

「うちは葵姉とは違います。姉と一緒にされるの嫌なんですよ!」
葵先輩と似ていると梓に言うと、文句しか返って来なかった。
ただし、顔ははめちゃくちゃ照れていたが。

そもそも、部活勧誘の時に葵先輩と間違えられ「髪型を変えようかな」と言いつつもまったくその気配を見せず、普段から「葵姉がですね〜」とよく発言し、アリスに「アリス、大和さんが卒業されてからの方が大和さんに詳しくなった気がします」と言われる始末。

根本的に、葵先輩が果たせなかった夢を自分が叶えるために桂水に来るくらいだ。誰がどう見たって、梓は葵先輩のことが相当好きであることに間違いなかった。

もちろん梓には言わないが。

目前に迫った大型連休をどう過ごすか、私は悩んでいた。

受験生として勉強をしなければならないのは分かっている。
それとは別に、昨年、一昨年と二年連続で行っていた恒例の熊本行きをどうするか。

なにより、えいりんが熊本にいないのだ。
試しにメールをしてみたら「大型連休は部活と実家に帰って部屋の片付けかな。いや、決して熊本に行きたくないわけじゃないよ。別に鍾愛女子を喧嘩して辞めたとかじゃないし。てか、あの学校において私の変わりはいくらでもいるしね(笑)」と返ってきた。

姉に電話をすると、
「ごめん。大型連休は研究室に籠らないといけないくらい忙しい。あ、聖香が来るなら合鍵渡すから好きに部屋を使っていいわよ」
と言われてしまう。

1人で熊本に行き、1人でぶらつくのも決して悪くはないのだが。
悩んだ末に今年は熊本へは行かないことにした。

それを決めた次の日。
大型連休前日の部活終了後。
私はまた別の選択を迫られることになった。

「そう言えば澤野。お前に聞きたいことがあった」
部活終了のミーティング直後、永野先生が私に尋ねて来る。

「お前、日本選手権に出る気はあるか?」
「はい?」
あまりに突拍子の無い一言に、私は思わず声を出してしまう。

周りにいたみんなも驚きの声を上げる。

「私も元実業団選手だし色々知り合いもいてな。日本陸連の関係者から、澤野を3000m障害に出場させてみてはどうかって言われたんだ。ただ、県総体や地区総体との日程調整が難しくてな。総体と日本選手権、どちらも出るとなると毎週試合になるんだ。ひょっとすると3000m障害は良い結果が出るかも知れないが、総体と両立がきついのも事実だ。まずは澤野の意見を聞いてみようと思って」

永野先生の話を聞いて思い出した。

私が高校新を出した時に、あのタイムがシーズンランキング2位と言っていた。

そうか……。
つまりその年の全国2位だったと言うことか。

「まぁ、連休明けでも間に合うからじっくり考えてからでも良いぞ。総体と日本選手権の二刀流で行くか、総体一本で行くか。個人的には今年はインターハイ1500mで十分に上位を狙いそうだから、一本に絞ってくれるとありがたいが。でも澤野の意思は尊重するぞ」

「永野先生、別の選択肢はダメですか」
自分で自分の声が震えているのが分かった。
なぜなら、次に言おうとしていることがあまりに突拍子もないことだと、自分でも分かっているからだ。

「なんだ? 他の選択肢って?」

「日本選手権の3000m障害一本に絞らせてください。県総体には出ません。私、社会人や大学生と戦った上で3000m障害で日本一になりたいんです」
私の発言に、永野先生もみんなも唖然としていた。

もちろん、自分でもばかげているとは理解している。イ
ンターハイ予選を回避してまで社会人や大学生と勝負をしようと言うのだ。

でも、私の中ではチャレンジしてみたい気持ちがあった。
記録会では3000m障害とナイター陸上で社会人や大学生とも走ってるが、陸連の公式試合ではまだ一度もない。

私の中でその気持ちを後押しする理由がもう一つ。

えいりんの存在だ。

えいりんは熊本県選手権で社会人大学生を相手にしっかりと走り、見事に二連覇をしていた。

私もえいりんのように年齢に関係なく真剣に勝負すると言うことをやってみたいと思ったのだ。

「あはは。そう来るか。さすがにそれは私も思いつかなかったな。まぁ、澤野がそれを望むのならそれでいいぞ。あ、でも県総体は澤野も応援兼マネージャーで帯同させるからな」

永野先生は私の意見に半分驚きながら、快く承諾してくれた。

みんなも最初はあっけにとられていたものの、最後には頑張ってと応援をしてくれた。