風のごとく駆け抜けて
「え? なにこの800m予選。6組3着プラス6は良いとして、なんで1組に15人いるの。スタートどうするのよ。セパレートじゃなくてオープンってこと?」
私は久美子先輩を探そうと、800mのページを見て思わず声を上げてしまう。
「ストップ聖香。初心者のあたしにも分かるように説明して!」
どうも麻子は言葉の意味が分からなかったらしい。
まぁ、高校から始めたばかりで、競技場も今日初めて見たくらいだしな。
そう思いながら私は説明を始める。
「まず6組3着プラス6って言うのは、予選が6組あって、そのうち各組の上位3名は自動的に準決勝に進めるの。タイムの遅い速いは一切関係なし。とにかく順位のみ。それでプラスは各組の4着以下でタイムが速かった上位者、今回は6名がさらに準決勝に進めるわけ。ちなみにプログラムに書くとこんな感じね」
私はプログラムに書いてある『6―3+6』と書かれた部分を指さす。
「ごめん、半分くらいしか理解できない。各組の3着までが自動的に準決勝にいけるのは分かったけど、プラス6がいまいち。6組の場合は、各組ちょうど1人ずつってこと?」
麻子は首を傾げつつ私に更なる解説を求める。
そこに紗耶が割り込んで来て説明を始める。
「プラスに組は関係ないんだよぉ。各組の4着以下全員のうちでタイムの速かった上位6名ってこと。つまりねぇ、1組、2組が牽制しあって全体的に遅くて、3組目がメチャクチャ速かったら、1、2組目からは1人もプラスが出なくて、その代わり3組目から3人くらい出る可能性もあるってことだよぉ」
「なるほど分かった。さすが紗耶。説明が聖香より分かりやすい」
いや、私の説明と紗耶の説明に差は無いはずだ。
ただ単に麻子が分からないと言った部分を、紗耶が再度教えただけのような気がするのだが。
「ちなみにうちが出る3000mはタイム決勝と言って、今回は3組あって1位から8位は、その3組全部の中から決まるの。だから、組で一番になっても、もっと速い人が他の組にいて、総合では3位だったりする可能性もあるわけ。まぁ、普通は組が遅い程、タイムが速い人がいるから、上位は最終組の順位がそのまま総合順位になったりするんだけど。しかもなぜかうちも最終組なのよね」
自分が走る3000mについて説明しながらも、微妙に愚痴が混じっている葵先輩。
「あと、セパレートとオープンについて。短距離みたいに決められたコースを走るのがセパレート。長距離みたいにスタートと同時にみんな同じ所を走るのがオープン。800mは本来、スタートから100mがセパレート。その後はオープン」
「ああ、お前ら。ついでに言うと、県高校総体の800mって昔からこんな感じだぞ。予選は15人でオープンスタート。準決勝からは、約100m過ぎたらオープンになる一般的な800mだ」
久美子先輩と永野先生も「じゃぁ私も」と言った感じで知識を披露して行く。
でも初心者の麻子にとっては情報量が多すぎたようだ。
みんなの説明に軽くパニックになっていた。
それとみんなはスルーしていたが、永野先生の一言がすごく気になった。
今の喋り方だと昔から県高校総体を知っている感じだ。
もしかして、永野先生自身、出場したことがあるのだろうか。
それを聞こうと思ったが、誰も突っ込まないので辞めておくことにした。
知識を披露したのち、久美子先輩はアップへと出かけようとする。
桂水高校に関係のある種目で言うと、まず一番に800mの予選がある。
「藤木と湯川は北原の付添いな。特に湯川は初めてだからな。藤木、すまんが湯川に色々教えてやってくれ。後、澤野は大和の付添い。それと、佐々木、お前は800mと3000mのラップを取ってくれ」
永野先生が1年生全員に指示を出し、みんながそれぞれ返事をする。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻