風のごとく駆け抜けて
ゴールをして給水を貰い、ゼッケンに付いているチップを役員の人が外していると、麻子と葵先輩が帰って来た。
驚いたことに、2人はぴったりと並んで接戦を繰り広げていた。
勝敗が付いたのは本当にゴール寸前。
あと3歩もあればゴールすると言うところで、麻子が体半分前に出た。
少し待つと紗耶が帰って来る。
それからしばらくして朋恵が。
そして晴美を待っていたら、ここで紘子と水上さんが帰って来た。
私達は急いで紘子の所へ行く。
「本当に最悪ですし。係員が見逃してて、10キロのコースへ行っちゃいました。500mオーバーして帰って来たから1キロ余計に走ってますし」
なんとも不幸な出来事だったが、とうの紘子は「まぁ、駅伝の1区と思えば良いですし」
と、私達が思っているほどは気にしていないようだった。
「はるちゃんが帰って来たんだよぉ」
紗耶の声にコースに眼をやると、真新しい桂水高校駅伝部のユニホームを着た晴美が、懸命に走っていた。
駅伝部全員でありったけの声を出して晴美を応援する。
その声に気付いたのか、晴美は少し照れくさそうに笑う。
人生初の5キロを晴美は無事に完走する。
それもタイムは26分08秒。
練習の結果がきちんとタイムに現れていた。
由香さんと永野先生も晴美がゴールして4分くらいすると戻ってきた。
2人を必死で応援してると、これはこれから先、二度と経験出来ない貴重な経験をしているのではないだろうかと言う気がしてくる。
優勝した私は、表彰式で水上さんから賞状と賞品の梨ジュース1リットルを2本受け取る。
どうやら各部門とも、優勝者はゲストランナーである水上さんから表彰してもらえる仕組みのようだ。
ちなみに紘子にもお詫びと言うことで、私と同じ物が大会運営から送られていた。
それと恵那ちゃんも3キロの部で優勝していた。
記録を聞けば、10分2秒というから驚きだ。
「恵那には絶対内緒だが、あいつ、私が小学6年生の時よりも速いからな」
恵那ちゃんが表彰のためにステージに上がっている時、隣にいた永野先生が教えてくれる。
「別に秘密にしなくても良いじゃないですか」
「あいつはそれが分かるとさらに練習しようとするからな。まだ体も出来て無いんだ。今はたしなむ程度で良いんだよ」
前に派手な姉妹喧嘩をしていたが、それでもやっぱり永野先生は恵那ちゃんのことを気遣っているし、仲は相当良いんだなと感じた。
その証拠にステージから戻って来た恵那ちゃんは、満面の笑みを浮かべてレースの詳細を永野先生へ伝えていた。
表彰式が終わり、水上さんのサイン会が行われいる間に私達はダウンを行う。
その後、水上さんが待ち合わせ場所に指定していたレストランに由香里さんの車で向かった。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻