風のごとく駆け抜けて
私は最初から全力で走る。
それには理由があった。
高校駅伝の5区が今日と同じ5キロなのだ。
今年は紘子が1区を走ることは間違いないだろう。
となると、チームで2番手である私は5区を任される可能性が非常に高い。
そう考えると、この5キロは本番を想定した走りが出来る絶好の機会だ。
あまり考えたくない話だが、私にタスキが回って来た時に城華大付属が遥か前にいたら、最初から全力で追わなくてはならない。
そう言った場面に直面してもオーバーペースにならず、きちんと対応できるように、全力で5キロを走った時のタイムを知っておきたかった。
1、5キロ地点で先頭を男性ランナーが5人程、そこから10mくらい遅れて紘子と水上さんが、さらに15mくらい遅れて私と男性ランナー4人が集団で追いかけている。
男性ランナーと競り合いながら走れるのも、市民レースの良いところだと感じていた。その分、記録も出やすくなる。
男性ランナーに必死に付いて行きながらも懸命に私は走る。
かなり速いペースではあったが、それでもこのペースなら5キロを走り切れる自信はあった。
2キロ地点まで行くと、急にコース上に人が増え始めるた。
どうも、私達の5分前にスタートした10キロの部の最後尾に追い付いてしまったようだ。
この時点で、私がいる5人の集団は先頭と少し離れてしまっていた。
10キロランナーを次から次に抜かしながらも前へと進む。
前を見ると多くのランナーが道路中に溢れている。
なんとも壮大な光景だ。
2、5キロ付近。ちょうど中間点に差し掛かる。
道路に大きなコーンが立っているのが見える。
きっとあれが折り返し地点だろう。
道路の反対側には5キロの先頭集団が帰って来るのが見える。
一瞬、なにか違和感があった。
でもそれが何かは分からない。
コーンに近付いた時、そばにいた役員が「頑張って。今女性でトップだよ」と応援してくれる。その言葉で違和感の正体に気付いた。
折り返して帰って来た先頭集団に、紘子と水上さんがいなかったのだ。
もしかして、間違って10キロランナーと一緒にコースを進んでいったのだろうか。
そうだとしても、走っている私にはどうすることも出来なかったし、自分の走りに集中する方が先決だと自分に言い聞かせ、レースに集中する。
前から麻子と葵先輩が競り合いながらやって来る。
2人もすぐに、紘子と水上さんがいないことに気付いたらしい。
「どう言うこと?」
「分からない。折り返しの役員に言って」
すれ違いざまに麻子と一瞬だけ言葉を交わす。
でもお互いが逆方向に走っているので、自分の気持ちを叫んでいるだけに近かった。
紗耶、朋恵ともすれ違い、次にすれ違うのは晴美かなと思っていると、向こうから私に気付いてくれた。
道路の中央側を走っていた晴美と、笑顔でハイタッチをしてすれ違う。
確かにこれは一生の思い出になりそうだ。
永野先生も面白いことを思い付いたものだ。
その永野先生と由香里さんにすれ違う時には残り1、5キロくらいとなっていた。
周りの男性ランナーと必死に競り合いながら、ゴールへと進んで行く。
ラスト500mになると、5キロの部女性トップが帰って来たことを知らせるアナウンスが流れる。
「澤野さん、頑張ってください!」
ゴール付近で恵那ちゃんの大きな声がしたが、人がごった返しており、声はすれども姿は見えずと言った感じだ。
男性4人と私の5人で走っていた集団は、ラスト300mで男性2人がスパートをかけバラバラになる。
私は駅伝のラストをイメージしながら必死に食らいつき、ラスト50mでその2人を抜き去り、男性を含めても総合6位。女性では1位でゴールした。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻