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風のごとく駆け抜けて

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夕食時、私が席に着くと、向かいに別の人が座って来る。

「それにしても速いな澤野。てかアップダウン強いんだな。最後の200mの登りで突き放されるとは。あ、うちはキャプテンの岡本。以後よろしく」
岡本さんが握手を求めて来るので、私もそれに応じる。

「随分と仲が良いのね」
木本さんが笑って岡本さんの横に座る。

「そりゃそだろ。将来の明彩大のエースだもん」
「はい?」
思わず私は岡本さんの顔をまじまじと見つめてしまう。

「あれ? 違うの。てっきり、明彩大に来たいから合宿に参加したのかと思ってたけど」
「いえ、本当に顧問が行って来いって放り投げただけですから」
「え〜違うの。澤野くらいの力があったら、間違いなくS級推薦とれるだろうに、勿体無い」
岡本さんの言っていることが分からず首を傾げると、木本さんが説明を入れてくれる。

「S級推薦ってのは、うちの部でも即戦力を取る時に使う推薦の種類よ。面接だけで入学できるし、学費もすべて学校持ち。まぁ、その代り陸上部に4年間所属するのが条件だけどね。毎年2名しかこの推薦は使えないけど、私立の特権よね」

そんなすごいことが出来るのか。
さすが私立だ。

と言うより、そんなすごい推薦を私が取れるわけがない。
そもそも全国大会にすら出たこと無いのだ。

それを岡本さんに言うと、意外な答えが返ってきた。

「え、うちも高校の時は全国大会出てないけど? 意外に多いよ、全国未経験者。逆にすごい奴はすごいけど。あ、良い所にいた。小宮。こっち」
説明しながら、岡本さんが誰かを見つけ、木本さんとは反対側に座るように合図する。

驚いたことに、それはクロスカントリー前に話しかけて来た不機嫌そうな人だった。

どうも小宮さんと言うらしい。

「小宮はすごいよ。1年生にして唯一Aチームにいるし、当然のようにS級推薦だし、さらには都大路で昨年1区を走ってるからね」
岡本さんに紹介されいる間も、小宮さんは不機嫌そうに私を見ていた。
木本さんもそれに気づいたらしく、小宮さんに「どうしたの?」と尋ねる。聞かれて、小宮さんは一度深くため息をつく。

「その都大路で私のすぐ前が山口代表の城華大付属、宮本って人やったんですよ。でもこの澤野って子、その宮本に県駅伝で勝ったそうです。つまり、私はあなたを倒さなければならない」

小宮さんの言っている理屈がまったく理解できなかった。

「相変わらず、小宮は負けず嫌いね。ごめんね、澤野。小宮ったら、都大路の時にその宮本って人に競り負けたのが悔しいらしく、大学になったら借りを返すってずっと言ってるよの。相手も城華大に進学するって陸マガに載っていたから、いつか対戦する機会はあるはずだって」

木本さんの説明に私はなんと言っていいか分からなかった。

宮本さんは城華大に入学しなかったのだ。
知らないのも無理はない。
宮本さんが進学を辞めたのは本当にギリギリになってからだ。

それを伝えるべきか一瞬迷ったが、すぐに話の話題が変わってしまい、タイミングを完全に逃してしまった。

食事が終わり、就寝前に部屋でゴロゴロしていると、木本さんがマッサージをしてあげようと言って来る。

クロカンでパンパンになっていたのと、木本さんのあまりの上手さに変な声を出してしまい、他のマネージャーから大笑いをされてしまった。

合宿も2日目、3日目と順調に過ぎて行く。
いや、順調かどうかは、正直悩む所だが。

この2日間、先輩方と競り合うのが精一杯だった。
駅伝部だと紘子だけに付いて行けば良いのだが、この合宿だとAチーム全員に大きな実力差が無いため、いつも競り合いになる。

おかげでラストの数mや最後の1本まで気が抜けず、体力だけでなく気力も使い果たす。

そのため、練習が終わって夕食を食べると部屋でいつもぐったりしていた。
昨日も今日も木本さんがマッサージをして体をほぐしてくれるのが有り難い。

「いや、でも澤野。そうは言うけどあんたすごいよ。競り合って気が抜けないって言うことは、見方を変えればうちの陸上部のAクラスとタメを張って走れてるってことなんだから。だいたいあの小宮と高校2年生にして競ってるのが考えられないわ」

言われて、自分のことを客観的に見れた気がした。
今までは練習で競ることに一生懸命で、あまり考えていなかったが、よく考えたら私は今、全日本大学女子駅伝6位のチームと練習をしいるのだ。多少は自信を持って良いのかもしれない。

と、部屋に誰かがやって来た。
よく見ると、キャプテンの岡本さんと小宮さんだった。
噂をすればなんとやらだ。

「いやぁ、世間は広いな。澤野みたいな高校生がいるとわね」
岡本さんは笑いながら、寝そべっている私の背中を叩く。

昨日は18キロのビルドアップでラストの1キロを岡本さんと競り合い、3秒差で私が先にゴールした。

「あんたに勝てない自分がふがいない。これじゃ、宮本と勝負した時に勝てへん」
小宮さんの一言に私はあることを思い出した。
ちょうど良い機会かもしれない。
今、きちんと話をしておべきだろう。

「あの、小宮さん。先日は言いそびれてしまいましが、その宮本さん、実は色々ありまして城華大に行かなかったんです。3月の下旬くらいに入学を蹴ったんですよ。今は普通に社会人やってます」
私の言うことが信じられなかったのか、小宮さんは唖然としていた。

「じゃぁ、なに? 向こうの勝ち逃げやん」
私が思っていた以上に小宮さんはショックを受けたらしく、それだけ言うと黙り込んでしまう。

岡本さんと木本さんが色々言って励ますが、すっかり落ち込んでしまった。

と、私はあることを思いつく。
持って来たバックから財布と携帯を取り出し、部屋を出る。

財布の中を探すと、思ってたとおり、この前宮本さんから貰った名刺がそのまま入っていた。

そこに書かれた携帯番号へ私は電話を掛ける。
3コール鳴った所で宮本さんが電話に出た。