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風のごとく駆け抜けて

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「はい、もしもし?」
「お疲れ様です。桂水高校の澤野です」
私が名乗ると、宮本さんの声が明るくなる。

「そう言えば名刺渡したわね。どうしたの? 文房具が大量に必要になった?」
「いや、そう言うわけじゃ無くて実は……」
私は事情を宮本さんに話し始める。

「あ〜覚えてる。ラスト800mくらいから抜きつ抜かれつの激しい争いになったのよ。懐かしいわね。まだ一年も経ってないのに、随分昔のように感じられるわ。終わってからも2人で少しだけ話をしたのよ。うん、せっかくだがら小宮に代わってよ」
宮本さんに「ちょっと待ってくださいね」と言って私は部屋に戻る。

「あ、帰って来た。どうしたの澤野? 突然部屋を飛び出して」
木本さんの問いに答える前に、私は小宮さんに携帯を渡す。

突然のことに驚きながらも、小宮さんは携帯を受け取り「もしもし? どちら様?」と相手が誰か尋ねる。

その直後、小宮さんが急に騒ぎ出した。

「はぁ、宮本?」
「そうよ。てかあんた、辞めたってどういうことなん」
「ふざけないでよ。勝ち逃げする気?」
「関係ないでしょ。また走り出せばええやん」
「別に、市民レースにだって出てやるわよ。あなたと勝負出来るなら」

小宮さんの声を聞くだけ、どんな会話がなされているのか容易に想像がつく。
 
その後も小宮さんはあれやこれや、いろんなことを宮本さんに言っていた。

と、小宮さんが私に携帯を渡してくる。

「宮本が澤野に代わって言うてる」
言われて私は携帯に出る。

「もしもし」
私が電話に出ても宮本さんは黙ったままだった。

「ごめん。小宮の前で泣くの我慢してたから」
涙声で宮本さんが声を出す。

「ありがとう。澤野のおかげで、もう一度走ってみようかなって気になった。小宮がまた勝負しようて。私、半年近くも走って無いから、一から体を作り直しだわ。まったく、小宮も無茶苦茶なこと言ってくれる」
声こそ涙声だったものも、少しだけ嬉しそうに宮本さんは話す。

「決して、今の生活が嫌いなわけじゃないのよ。働くのは楽しいし。それでもね、走りたいと思いつつ走らない自分に疑問を感じていたのも事実なのよね。でも……走ろうって気になったら……ごめん涙が止まらない」

宮本さんはしばらく泣き続けた後で、
「ありがとう澤野。あなたが困った時は力になるから。遠慮なく言って」
と言って電話を切った。

私が電話を切るのを待っていたらしく、小宮さんが私に迫って来る。

「なあ、宮本の連絡先教えてくれへん」
言われて、小宮さんに宮本さんの名刺を渡す。
小宮さんは名刺を見ながら、自分の携帯で電話を掛ける。

「宮本? 小宮やけど。これうちの番号な。ってあんた泣いてる?」
あ、もしかして宮本さんは、また私からかかって来たと思ったのかもしれない。

その後も笑いながら小宮さんはなにやら話していた。

私とえいりんも他人から見るとこう言う関係に見えるのだろうか? 
私はふとえいりんにメールをしてみようと思った。