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風のごとく駆け抜けて

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バスから次々と明彩大学の部員が降りてくる。
牧村さんは総勢52名と言っていたが、実際にその数をみると圧倒される。
単純に考えて、桂水高校駅伝部の7倍近い数だ。

バスから降り、玄関前に整列した部員の前に牧村さんが立つ。
なぜか私もその横に並ばされた。

おかげで、目の前にいる全員の視線があきらかに私に注目している。

「はい、みんなお疲れ様。今年も恒例の夏合宿の始まりです。駅伝に向けての大事な一歩です。各自、己の目標をしっかりと定め有意義な練習にしてください。それと、今年の合宿にお客さんを連れて来ました。わたしの実業団時代の後輩が監督をやっている、山口県立桂水高校駅伝部2年の澤野聖香さんです」

牧村さんに紹介され、私は「お願いします」と一礼をする。

「ちなみに澤野は、監督さんの意向もあり、Aチームで練習してもらいます」
その言葉に部員たちが騒めき始める。

私も思わず牧村さんを見る。
全日本大学女子駅伝6位のチームでAチームと言ったらメチャクチャ強いのではないのだろうか。

ただの高校生が付いて行けるとは思えないのだが。
私の心配をよそに牧村さんは話を続ける。

「それと澤野のベストは1500mが4分19秒01。3000mが9分25秒11だそうです。あと、昨年の山口県高校駅伝で1年生にして1区の区間賞を取っています」
その説明にさっき以上の騒めきが起こる。

「あと、恒例のナイターレディース陸上記録会も参加させます。よし、木本。ごめんけど合宿中、澤野の面倒を見てくる? 宿泊はマネージャーの部屋でよろしく」
「はい。わかりました」
集団の一番右端、最前列にいた人が返事を返す。
彼女が木本さんだろうか。

牧村さんが他にも注意事項をいくつか説明し、まずは荷物を部屋に入れることになった。

やはり先ほどの女性が木本さんだったらしく、真っ先に私の所へ来てくれた。

「初めまして澤野さん。4年でマネジャーの木本菜々美です。さっそくだけど、部屋に行こうか」
木本さんの後ろについて階段を上がり、一番奥の部屋へ入る。

「ここがマネージャーの部屋なの。うちの部、マネージャーが3人いるから、ここはあなたを入れて4人部屋になるわね。それにしても澤野さんってすごいのね。Aチームで練習なんて。まぁ、タイムを聞けば納得だけど。下手をするとAチームのなかでも上位に付いていけるんじゃない?」

ニコニコ笑いながら木本さんは私を見る。
そう言われても、まだ走って無いのでなんとも言えず、笑ってごまかすしかなかった。

荷物を置き、また玄関前に集合する。
さっきと違うのは、誰もが走れる恰好をしていると言うことだ。

今日は移動日のため、チームに関係なく軽めにクロスカントリーを20キロ走って終わりだと、木本さんが説明してくれる。

この時点で私は、Aチームに付いて行くのは難しいのではないかと感じてしまう。

なぜなら桂水高校駅伝部でこの練習はきつい本練習に分類されてしまう。
これを軽めと言うあたり、練習の質が随分高い気がする。

ちなみに木本さんの説明によるとAチームが駅伝レギュラーメンバー。
Bチームがそれ以外で、Cチームは一年生や故障者らしい。

Aチームは現時点で10人しおらず、この合宿とその後にある記録会の走りを見てBチームから5名程を追加するらしい。

これは毎年恒例のチーム編成だそうだ。

「Bチームの人はレギュラー入りを目指してるからもちろんのこと、Aチームメンバーでも合宿でしっかり走れなかったら降格もあるし、みんなこの合宿は気合いが入ってるのよ」
それを聞くと、本当に私が合流してもよかったのかと、疑問に思ってしまう。

とは言うものの帰るわけにもいかず、目の前の練習をこなすしか選択肢は無かった。

駅伝部の人に付いて合宿所から5分も走ると、クロスカントリーコースに出る。
驚いたことにコースが全て芝生だった。

桂水高校でクロスカントリーと言えば、裏山の林道だ。
なんだか芝生のクロスカントリーを走れると言うだけで、テンションが上がって来る。

アップの体操をしていると、木本さんが私の所へ来てくれる。
「ここ2キロの周回コースだから、きつかったら途中で辞めてもいいからね」
「いえ、芝生のクロカンコースを走れるなんて滅多にないですから、しっかり堪能してきます」

「なんとも頼もしいこと。暑いから給水は3周ごとに取るように心がけてね」
木本さんはそれだけ言うと、マネージャーの仕事へと戻って行った。

「ねぇ、あなたに聞きたいことがあるんやけど」
今度は後ろから声がした。

振り返ると、ちょっと不機嫌そうな顔をした人が立っている。

「あなた、山口県から来よったんやろ。県駅伝で1区区間賞ってことは、宮本に勝ったってこと?」
「あ、はい。最後の最後まで接戦でしたけど、なんとか」
私が言うと、その人は不機嫌そうな顔をますます不機嫌にして、「そう」とつぶやきどこかへ行ってしまった。

20キロクロスカントリーは後半から段々とペースがあがり、最後には競争となった。最初、遠慮して一番後ろからスタートしていたが、ペースが上がるに連れ、自然と前へ前へと出て行き、ゴールしてみれば6位になっていた。

 終わってから色んな人が私に話しかけて来てくれた。誰もが、私の走りがすごいと言って来るが、なんと返していいか分からず、「ありがとうございます」と何度も何度も頭を下げしまい、最後には笑われてしまった。

でも、そのおかげで、初日からみんなとの距離が縮まったように感じる。